PSOみんなの広場

 




 「マスター。マスターSNOW。」

「・・・・・・・・・」

「マスター、女性ノオ客様ガオミエデス」

「ぬ!?」

「冗談デス。ソウデモ言ワナイトオキテクダサラナイノデ」

「なななっ〜!?そんなことは決してないぞ!FACT!」

 最近、FACTの学習能力には目を見張るものがあると確信する。我ながら嬉しくもある。

「BEEシステムヨリ、90ガ帰還スルトノメールヲ受信イタシマシタ」

「お。そうか。ってそんな重要なことなら起きるよ!」

「装甲ノ破損率ガ50パーセントヲ上回ッテイルヨウデス。整備室ノセットアップヲ推奨シマス」

「頼む。着替えたらすぐいくよ」

 すっと立ち上がれた。90が帰ってくる。結構、破損してるようだ。90は僕が作ったアンドロイドで、FACTの弟機にあたる。といっても、彼のステイタスは兄とは逆である。体格はほぼ同程度であるが、90は戦闘タイプのヒューキャストだ。彼には、僕の実地調査について来てもらったり、単独でデータ収集をしてもらったりしている。今回はその後者にあたることを、昨日から一昼夜通しで行ってもらっていた。

「さて。90君は、どんなデータを持ち帰ってくるのかな」

 こんな時に自分の中に研究者としての興味が沸いている。90は半分がイカれてるってのに。いけないと後から自制した。

「まずは、修理から」

 薄汚れた白衣を肩に、整備室に向かった。


 90の痛みようは想像以上に激しかった。その外見とは裏腹にしっかりとした歩行で帰ってきたのが変に不釣合いだった。

「おかえり、90。ごくろうだったね」

「タダイマ帰還シタ、マスターSNOW」

「すぐに横になって。修理するよ」

「了解」

 90には、FACTよりも簡潔で率直なプログラムを採用してある。以外と僕の痛イところを素直に突いたりする。基本的にはイイ子なんだけど。

 90がアンドロイド用の整備台に横になろうとしている。不意にみせたその背部アーマーにはなんとも痛々しい3本の爪痕が・・・。
そして、両腕には何かにカジラれたような痕跡。ヘッドパーツは硬い鈍器のような物で強打されたのであろう、少しへこんでいた。アイ付近にもひび割れを起こしていた。

「どうやら、激しいことになってたようだね」

「マスターノ言ウ通リノヨウナデータヲ得タ」

「っほぅ。やっぱりね。だろうねぇ」

 言葉とは裏腹に内心ホッとしていた。修理をしながらである。実際、修理といえども、今回はアーマーごと交換する以外方法がなさそうだ。とりあえず、胸部アーマーからはずしにかかっている。

「ラグオル地表ニオイテ、昼夜ノ生物間生態系ノ変異ガ認メラレル可能性ガ高イト思ワレル。日中ニオイテハ、ブーマ系生物、ラッピーノ活動ノ頻度ガ高イ模様。日没ニ近ヅクニツレ、逆ニ、大型ノ爬虫類ニ酷似シタ生物ノ活動ガ盛ンニナリ始メ・・・」

「わかった。しゃべらないで。データはあとで」

「ブラザーニデータカラ統計的検定ヲ行イ仮説ノ立証ヲ委託スル」

「そうだね。データはFACTに分析してもらうよ。とりあえず、君は回復しなきゃ。いいね?」

「了解」

 そう、いい子だ。どうやら、思考回路やプログラムにまで異常は見られないな。だったら、だいじょうぶだね。それにしても、データに確証が得られそうだ。今までに確認されている原生生物種においても、詳しい生態がやっとわかってきている。それと、今回の90の働きによってまた得られることがあるだろう。うん。これはおもしろいことになるかも。そう・・・・・・・・


ラグオルの夜には、僕らの未知の領域がまだまだ存在する・・・・・・・・!


 90の修理が終了する頃には、すっかり夜を示す時刻となっていた。

「フゥ。よし。これでヒトマズはいいかな。とりあえず、システムを再起動してから、今日はもう休んでくれ」
 
「了解。アリガトウゴザイマシタ」

「うん。ご苦労様。オヤスミ」

 ッグーっと背中を伸ばしながら僕は整備室を後にした。実験室でFACTにデータ解析をすでに頼んであった。

「おや?」

 実験室にはFACTはいなかった。ウーム、どこにいったのかな。とりあえず、僕のデスクについた。まあいい。彼はサボるような子ではない。それよりも、とりあえず僕自身が90のデータを確認しておかなくては。

 ガシャン、ガシャン・・・・・・・
 
「マスター、コーヒーヲオモチシマシタ」

「うん?ああ、助かるよ」

 コーヒーを入れてたのか。ありがたい。流石にいい子だと思った。

「先ホド、90ノデータカラ統計的検定ヲ終了致シマシタ」

「ン。ああ、速かったね。僕はまだ生データすら見てないんだけど」

 FACTは、デスクの横に設置されているプリンターから、すでに印刷終了された紙を器用につまみ出して、僕に手渡した。紙にはFACTの掴んだ跡なんて一切付いていなかった。紙は2枚あった。

「一枚目ハデータヲ出力シタモノト、平均値、偏差等ヲ記述シテアリマス」

「うんうん」

「二枚目ハ検定結果ヲ記述シマシタ。研究仮説ヲマスターノ言ウ通リ”昼夜ニ生物活動ノ優位差ガアル”トシタ場合、帰無仮説ヲ大キク棄却スルコトガ可能デス」

「うんうん」

「タダ、夜間ニオケルデータ量ガ不足気味デアルヨウデス」

「うーん、そうかァ。やはり90だけを夜間も出させるのは危険だったよな。このままだと少し説得力にかけるかな」

「ソウ思ワレマス」

「ウン。ありがと。今日はもう休んでくれ。ご苦労だったね。あ、落ちる前に90の様子を確認しといてくれ」

「了解デス。マスター、オヤスミナサイ」

「おやすみ」

 ガシャン、ガシャン・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・。FACTも90もよくやってくれている。最近の彼らはすごい成長をみせている。それに比べて僕は・・・。なんなんだろう?ちょっと前のコトも振り切れずに、全部彼らに任せきっているようだ。いけないよな。こんなんじゃ。もし彼らがいなくなってしまったら、僕はちゃんとやっていけるんだろうか。いや、こんな考え方自体がいけない。こんなマスターがいるから、アンドロイドの人権運動の一つだって起こるよ。

 実験台の上には、製作途中のFACTの追加装甲ユニットがあった。遠めな目でそれを眺めながら考えていた。

 もしも、FACTや90が、僕の手を離れて、一人立ちしたいと言ってきたら、気兼ねなくそれを受け入れようと思う。笑顔をもって


「オハヨウゴザイマス、マスター。朝食ノ準備ガデキテオリマス」

「ン。おはよう、FACT。いつもすまないね」

「朝刊デス」

「うん」

 一通りそろった朝食に、おいしいコーヒー。なんの文句もないのだけど。

「マタ遅クマデ起キテイラッシャッタノデスカ。アマリ関心イタシマセン」

「ム。なぜわかった?」

 「覚醒レベルガ弱イヨウデス。本来、マスターノ寝起キハイイモノデハアリマセンガ。ソレト、マスターハニューマンデアリマスノデ、モット健康面デ気ヲ使ッテクダサイ」

「こりゃどうも。今度から気をつけるよ」

 FACTの追加装甲を完成させた、と言いたかったんだが、この雰囲気では逆に怒られてしまいそうだ。

「今日は、90のデータで不足していた、主に夜間のデータ採集に行こうと思ってるんだけど」

「ソウデシタカ。タダ、90ノ整備具合ニヨッテハ、90ハ出ナイホウガヨロシイカト」

「うん、だから僕が直接降りて・・」

「ヨロシケレバ、私ヲオ供ニシテイタダキタイノデスガ」

 一瞬、キョトンとしてしまった。

「あ、ああ。そうしてくれると助かるよ」

「アリガトウゴザイマス」

 正直、うれしかった。まさか、FACTのほうから一緒に来てくれると言ってくれるとは思わなかったよ。ん?自分から言うなんて、FACTのやつ、やっぱり僕が追加装甲を作り上げたってしってるのか。いや、あり得るコトだ。FACTならば気づいてもおかしくないね。

「それじゃあ、僕はやることがあるので、なにかあったらコールしてくれ。夕方には出発するから、準備を頼むよ」

「了解シマシタ」

 残さず食べ終わったら、そそくさと席をたった。FACT用の武器の整備をして、90の調子も見ようと思っていた。