
ギルドカウンタ−の前には昨日とは違い赤を基調としたハンタ−ス−ツを着込んだリテルナが佇んでいた。
「今日は宜しくお願いします、エクセルさん。」
「あ・・ああ、宜しく。情報によるとかなり危険が伴う、今回の依頼はあくまでも貴方の護衛だ、もしもの時は自分のことだけを考えるんだ。私のようなアンドロイドなら幾らでも代わりがいるが、研究者としての頭脳を持つ貴方は一人しかいないのだからな。」
「え・・・でも・・・。」
リテルナは戸惑ったような表情で私を見上げる。
「気に掛けるな、もしもの事などありはしない。」
「・・・はい。では行きましょうか。」
「かなり浸水が進んでいるな、思ったように動けないのが難点だな。」
施設の床には私の脚部の約半分を水没させるほどの水量で満たされていた。
やはり海底研究施設と言うだけあり、薄暗く、空気も冷えている。
時折、海底を眺められるような部屋があり、かなり多くの研究者が存在していた事を思わせる。
所々に設置された端末は殆どが浸水によって停止していた為、生きた端末を探すのには手間が掛かった。
「五台目・・・、これもやっぱりダウンしてます、せめて現在位置でも把握できれば良いのだけど。」
リテルナの声が途切れると共に、フリ−になった私の聴覚センサが移動する機械音を捉えた。
「・・・、どうしました?エクセルさん。」
人間には聞こえないようだがアンドロイドである私には、確実に捕らえられていた。
しかし、施設全体の機械音が時折ノイズとなり、正確な位置を把握する事は敵わなかった。
「・・・、下がれっ!リテルナ!!」
微かな感覚を元に私はパルチザンのフォトンの刃をリテルナの目前を過ぎる様に、切り付けた。
次の瞬間、何も無かった筈の空間に青い装甲が露になった。
パルチザンの刃は動力系統に食い込み、微かな火花を散らしていた。
「あわ・・・、う・・・。」
リテルナは目前で起きた事を整理できずにいるようで、体を強張らせている。
「警備用か・・・、しかし、何故だ・・・プロテクトは解除されているし、コ−ドの類も発せられていない。排除用のプログラムが実行されているとも考えがたい・・・。」
私は、A.I内に詰め込まれた知識を引き出し、該当する物を検索していた。
「・・・どうやら、謎を解く暇も与えてはくれない様だな。リテルナ、全方位に敵がいる、常に低温に保たれているこの施設では、大半が熱に弱い筈だ。私は、最も厄介な奴を叩くとする。雑魚は任せたぞ。」
「は・・・はいぃ!」
私はセンサ−の僅かな反応を頼りに、前方をパルチザンで一閃する。
機械とフォトンの擦れ合う独特の音と共に、青い装甲が虚空に現れ、重厚な体からは想像できない身軽さで後退する。
「今だ、フォイエを打ち込んでやれ。」
「はいぃ、フォイエ!」
以前に、共に行動したフォ−スのフォイエには驚かされたが、リテルナのそれは遥かに大きく、速度も速い物だった。
フォイエは青い装甲を黒く染め、機械は機能を停止させる。
「リテルナ、前方に三機、左右に一機ずつ潜んでいる、気を付けるんだ。」
私の言葉にリテルナは頷き、ロッドを構える。
「ラフォイエ!」
ほんの数秒、その間にリテルナは最上級のテクニックを放ったのだ。
周囲から黒煙が上がり、所々が黒ずんだ青い装甲の機体が四機、姿を現した。
「後一機は・・・!」
私の言葉を断つ様に、残りの一機は前方に赤い装甲を現す。
赤い装甲の機体は、一瞬姿を消したかと思うと私の背後に移動しリテルナを襲う。
「きゃああ!」
「しまった!」
私は振り返ると共に咄嗟にダガ−を片方取りだし、その刃を付き立てた。
「・・・あ・・。」
赤い装甲の機体はア−ムを振り上げた状態で硬直していた。
突き刺したダガ−の周囲には青白い火花が散り、微かな音を立てていた。
「は・・・はぁぁ。」
リテルナは顔を赤い装甲の機体に向けたまま、尻餅をつく。
「あ、有難うございます〜・・・。」
「仕事だからな、当然だ。・・・しかし、セントラルド−ムの地下といいここと言い、何故機械が意思を持つ様に襲ってくるのだ?」
私は、赤い装甲に突き刺さったダガ−を抜く。
「はぁ・・・聞いた話なんですけど、セントラルド−ムの爆発は物理的な爆発では無かったみたいなんです。あれだけ大きい物理爆発ならセントラルド−ムはおろか地下施設、周囲の環境の殆どが崩壊してしまう筈なんです。」
「しかし、そう言った痕跡は見られなかった・・・、それと何か関係が?」
「ええ、つまり、爆発は異常フォトンの影響であれだけの光量を発しただけで、実際はその異常フォトンが物理的な被害を齎した訳ではないんです。つまりですね、原生生物の狂暴化、原生生物の異常変異したアルタ−ド・ビ−スト、地下施設の作業用及び警備用機械の暴走、は異常フォトンが原因だとも言われているんです。」
「つまり、ここも異常フォトンの影響があると・・・?」
「ええ、推測に過ぎないのですが。」
「だが、ここはセントラルド−ムから遠く離れている・・・たとえ爆発の衝撃がいかに強くとも、フォトンが武器として使用されるほどの質量を持っていたとすれば、ここまで飛火するとは考え難い・・・。」
「いえ、今まで見て来て解かった事なんですけど、ここはどうやら生体工学、機械工学、フォトン工学が総合的に研究を行っていた施設みたいなんです。」
「異常フォトンも然り・・・と言う訳か。」
私は妙な不安に狩られ周りを見回した。相変わらず、冷たい空気が辺りに漂い、不気味な重低音が聴覚センサにこびり付く様に鳴り続けている。
端末を探して、約十数台目、ようやく反応を示してくれる端末を発見した。
リテルナは手早く携帯用の端末を接続し、デ−タ転送用のバイパスを確保する。
「次は・・・物資転送用バイパスを・・・、あれ・・・開かない。」
「どうした?」
「あ、いえ。物資転送用のバイパスが開かないんです。座標は間違っていない筈なのに。」
リテルナは私の方を向きそう話していた。その時、端末の周波数に若干の乱れを感じた。
ほんの一瞬だけ、急激に低下した・・・。
僅かだが、画面にノイズも入り始めた。
「・・・あの・・・どうしました?」
何時の間にか、端末に気を引かれていた。
その所為もあったかもしれないが、私のセンサは明らかに異常な生体反応を捉えていた。
反応源のフォトン反応はセントラルド−ムの地下に見られた異常フォトンに酷似していた。
「厄介な奴が来るぞ・・・変異体だ、それもかなりの大きさのな。」
「はっ・・・はい!」
確かにフォトンの反応は近付いているのだが、姿は視界センサに映し出されない。
次の瞬間、それは急に姿を現し、私に向かい突進してきていた。
私は、パルチザンの柄で突進の衝撃を受け流す。
「やはり、亜生命体か。」
突進の反動で亜生命体は、一度はバランスを崩したものの、再び私を睨みつける様に、向き直った。
それは、その重厚な体からは想像できない速度でこちらへ向かってきた。
私は、横に避けると同時に、パルチザンの刃を押し付けた。
通りすぎた亜生命体の頭部には深く刃の入った傷跡があったが、まるで痛みを感じていないかのようにその身を揮わせ再び睨みつける様に向き直る。
一瞬、亜生命体の周囲のフォトン濃度が急に増加した。
フォトンは、亜生命体の額の中心に集約され一気に放たれた。
「早いっ!」
私は、ほんの僅かな感覚で避けたものの、接触した部分の装甲の表面を覆うコ−ティングが物の見事に削ぎ落とされていた。
息をつく暇も無く、亜生命体は次砲を放とうとする。
「フォイエ!」
次砲を構える亜生命体に向かい、リテルナはフォイエを放った。
亜生命体の頭部に当たったフォイエは、亜生命体の頭部の表皮を焼き払い、傷跡からは細かく脈を打つ器官が見て取れた。
それにはさすがに痛みを感じたらしく、亜生命体は大きく仰け反った。
「そこか・・・っ!」
私はその隙に、亜生命体の背後に回りこみ、傷口から見える急所と思しき場所に手刀を入れた。
装甲に覆われた私の手が突き刺さると、そこからは青紫の粘液が漏れ出す。
亜生命体は、その体をもう一度大きく仰け反らせ、そして黒い霧を残して消え去った。
「まずいな・・・。」
「え・・?何がです?」
リテルナは大袈裟に首を傾げて見せる。
「一瞬、ほんの一瞬・・・私の体にフォトンエネルギ−が触れたその瞬間・・確かに何かがシステムを浸食した。それが何であるかは特定できなかったが・・。」
私は、何気なく不安に駆られ、紫の粘液のついた指を何度も動かしてみる。
「あの・・一度戻った方が良いかもしれませんね、私も補給が必要ですし。」
「そうだな・・この異常の原因も調べた方が良いかもしれないな。」
私は、テレパイプの装置を床に設置し、電源を入れる。一瞬、引き込まれる感覚の後に装置から光が溢れ出す。
「では・・・。」
装置に入ったリテルナを燐光が包み、やがて消えて行く。
私はそれを確認し、装置に入ろうとした。
「!!」
突如、光が消え装置が作動を停止した。
次の瞬間、施設全体を大きな振動が包み、異常な質量のフォトンが施設内に満ちた。
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