
ほどなく遺跡エリア1へと到着する。
「よし!いくぞ!」
そういって最初のフロアへと通ずる扉へと向かおうとするYukaにMistが声をかける。
「ちょっと待って!遺跡の敵は今までの敵とは比べものにならないぐらい強いから、用心のためにシフタとデバンドかけておくから。」
Mistは素早くシフタとデバンドを唱える。
テクニックを得意とするフォースはハンターやレンジャーとは比べものにならないほど強力なテクニックを覚える。
1度その効果を受けるとしばらくはかけ直す必要がないほど強力だ。
元々自分のサポートのために覚えたテクニックだったが、仲間と一緒に探索するようになり自分のテクニックがみんなのサポートのためにもなると気づいたMistなりの心遣いだ。
「ありがとうございます!」
「いつもすまんな。」
「ありがとうございます。助かりますわ。」
アンドロイドであるSHINOにとって、テクニックでのサポートは非常に助かる。人間であるからこそ覚えられるテクニックはアンドロイドにはない長所だからだ。
「これでOKだよっ☆じゃ、いこっか♪」
「はい!」
「おう!」
「了解しましたわ。」
4人はMistに呼応するように返事をする。
最初のフロアへと4人は足を踏み入れる。
「早速敵のお出ましか。気ぃ抜くんじゃねぇぞ、Yuka。」
「分かってますって・・・。うわぁぁぁっ!」
不意に後ろから襲ってきたディメニアンにYukaは驚く。
驚きながらもハンターの習性ですぐに後ろに振り返り、ヴァリスタのトリガーを引く。
1発、2発、3発。全てディメニアンに命中し、致命傷を食らったディメニアンはその場にゆっくりと倒れていく。
「いきなり攻撃食らってどうするんだよ!もっと集中しろ!」
CHEIKOはYukaを一喝する。
「す、すいません。突然だったものだから・・・。」
「言い訳する暇があったら3時方向の敵を攻撃しろ!」
「は、はい!」
あわててヴァリスタの銃口を3時方向に向け、Yukaは攻撃する。
要所要所でMistのテクニックが炸裂し、ほどなく敵は全滅した。
「SHINOさんよ、どうだい?何か反応はあるか?」
「いえ、まだ何にも。」
全滅した敵の死骸を見ながら尋ねるCHEIKOにSHINOはそう答える。
「さすがにそう簡単には見つからないってか。ゾーク様々だな。よし、次のフロアに向かうぞ!」
「はい!」
「りょ〜かいっ☆」
「了解しましたわ。」
3人の返事を聞き、CHEIKOは次のフロアに通ずる扉へと向かう。
Mistの高レベルのテクニックが炸裂する中、YukaもCHEIKOもSHINOも一体一体に向け、攻撃を続ける。
4フロアほど回った頃だろうか。最初にMistがかけてくれたシフタとデバンドの効力が切れた。
「シフタとデバンド、かけ直しておくね。それから体力も減ってるだろうからレスタもかけるね☆」
そういって素早く3つのテクニックをMistは唱えた。
最後に唱えたレスタの効果で身体が暖かくなるような感覚を覚える。体力が回復した証拠だ。
「ふ〜・・・生き返る〜・・・。」
Yukaがぼそりとつぶやく。
「おまえが集中してないからそういう事になるんだぞ。もうちょっと気合いを入れろ!」
CHEIKOはそう言いながらYukaの頭をこつんと叩く。
「だって初めてだし、しょうがないじゃないですか・・・。」
「おまえの親父さんは初めて行く場所でも集中して敵に向かってたぞ。ほとんど攻撃を食らう事もなかったし、滅多に倒れる事なんてなかったぞ。」
CHEIKOはYukaに父の事を話す。
「まだハンターズに入って1年しか経ってないし、しょうがないじゃないですか。」
「そうやって言い訳ばっかりしてるようじゃ、親父さんを超えるなんて到底無理のようだな。親父さんのすすり泣く声が聞こえてきそうだ・・・。」
皮肉めいた言い方でCHEIKOはそう話す。
「別にそんな風に言わなくてもいいじゃないですか。僕だって一生懸命やってるんですから。」
「ま、俺がびしびし鍛えてやるから心配するな!」
「・・・余計に不安です。」
「ん?何か言ったか?」
「いえ、何でもないです。」
聞かなかったふりをしたCHEIKOにYukaは答える。
「よし、それじゃあ行くか。」
「はい、そういたしましょう。」
「ところで相変わらず反応はないのか?SHINOさんよ。」
「えぇ。どうやらこのエリアにはいないのかも知れません。先を急ぎましょう。」
「了解。さすがはゾーク様だな。」
SHINOの返答を聞いたCHEIKOはそう答える。
YukaもMistもその場から立ち上がり、次のフロアへと通ずる扉へと向かった。
次のフロアは滝の流れている大きなフロアだった。
「ここは敵が多く出現する可能性があるからな。お互い注意しながら攻撃するぞ!」
長年のハンターとしての感だろうか、CHEIKOは3人にそう告げる。
「わかりました!」
「りょ〜かいっ☆」
「了解しましたわ。」
3人もそのことを聞いて返事を返す。
順調に4人とも敵を倒していたとき、SHINOの悲鳴が聞こえた。
「きゃぁぁぁっ!」
その声を聞いたYukaはとっさにSHINOの方へと振り返る。
何と彼女をダークベルラが襲っていたのだ。攻撃を受けて倒れ、起きあがろうとしたSHINOの頭上にはダークベルラの狂手が今まさに振り下ろされようとしていた瞬間だった。
「危ない!伏せて!」
瞬時に判断したYukaは大声でSHINOに叫ぶ。
その声を聞いたSHINOが伏せたと同時にYukaはヴァリスタを3発命中させる。
しかしダークベルラは倒れなかった。
Yukaの大声に気付いていたCHEIKOは瞬時にダークベルラの懐へと飛び込み、自慢のデルセイバーの剣を振るう。
「くたばれぇっ!」
Mistもそれと同時に光属性のテクニックであるグランツを唱えていた。闇属性である遺跡の敵にとってはこのテクニックが一番有効だからだ。
「倒れて!」
さすがのダークベルラもこれだけの集中攻撃を受けて参ったのだろう。断末魔のようなうなり声とともにその場に倒れていった。
「SHINOさん!大丈夫ですか!?」
倒れた事を確認してYukaはSHINOの元へと走り寄り、身体を抱き起こす。
CHEIKOもMistもSHINOの元へと駆け寄った。
「えぇ、何とか大丈夫ですわ。」
「無理しないでください。今レスタをかけますから。」
Mistがレスタを唱えると、SHINOの身体から淡い光が浮かぶ。
「まったく・・・。あれほど気を付けろと言ったはずだぞ!敵が死んだから良かったようなものの・・・。」
「すいません。自分の目の前の敵に集中しすぎて・・・。」
「まずは言い訳を言う癖から直さないとだめなようだな、お前は!」
CHEIKOはYukaを激しく叱責する。
「CHEIKOさん、Yukaさんを責めないでください。私の不注意で皆さんにご迷惑をおかけしたわけですから。」
「・・・まぁ、SHINOさんがそう言うのなら・・・。」
と言って難しい顔をしながらもCHEIKOは叱責するのをやめる。
「Yukaさん、ありがとうございました。もう大丈夫ですから。」
SHINOが恥ずかしそうにそう告げるとあわててYukaは抱きかかえていた手を離す。
「本当に大丈夫ですか?」
「えぇ。Mistさんのおかげで体力も回復しましたし。」
心配そうに聞くYukaに対してSHINOは返事をする。
「無事ここの敵も一掃しましたし、先を急ぎましょう。ゾークの身に何かあってからでは大変ですから。」
SHINOは不安げな表情を浮かべ、3人にそう告げる。
「分かりました。急ぎましょう!」
「了解!」
「りょ〜かいっ☆」
4人は次のフロアへ通ずる扉へと向かっていた。
その後も順調に敵を倒し続け、ようやく次のエリアに向かう転送装置の前へと到達した。
Yuka、CHEIKO、Mistがその転送装置に入ろうとした時、SHINOは3人を呼び止めた。
「ちょっと待ってください!今、微かながら反応がございました!次のエリアにゾークはいるようです!」
SHINOの言葉を耳にし、3人は驚きの表情を浮かべる。
「本当ですか!?それならなおさら急ぎましょう!」
SHINOの言葉にYukaはそう返事をする。
返事をすると同時に4人は次のエリアへと転送されていた。
次のエリアに入っても順調に敵を倒し続けていた4人。
あるフロアの敵を倒し終わった時、SHINOが何かを見つけたようだ。
「・・・!」
その何かを見てSHINOは驚愕する。
「これはゾークが片時も離す事のなかった愛刀・・・。なぜこんなところに・・・。」
ぼろぼろに傷ついたカタナを見ながらSHINOは言う。
辺りを見回した時にもSHINOは思った疑問をそのまま口にする。
「今までのフロアと違って壁に傷がたくさん付いています。・・・激しく斬り合ったような後にも見えますが・・・。・・・もしやゾークが?」
SHINOの言葉につられて3人も周囲を見回す。
SHINOの言うとおり、辺りの壁には激しく斬り合ったような跡が残っている。しかしフォトンを利用した武器ではここまで深い傷が付く事はない。
「さすがはゾーク。だてにアンティークな武器を使ってるだけじゃないようだな。」
CHEIKOも納得するかのように思った事を口にする。
「愛刀が見つかったという事はこの付近に必ずいるはずです。先を急ぎましょう!」
SHINOもはやる気持ちを抑えつつも3人にそう告げる。
次のフロアでもまたゾークの愛刀が見つかった。確実にゾークの元へと近づいているのだろう。
しかし、その愛刀を見てSHINOはまた驚愕する。
「・・・このカタナの帯びているフォトンの量は通常よりも異常に値が高いようです。なにか強制的にフォトンを送り込まれたような感じにも見受けられます・・・。」
SHINOはゾークの愛刀を見て感想を漏らす。
「残る1本がどこかにあるはずです。反応もだいぶ強くなってきていますし、先を急ぎましょう!」
SHINOの言葉を聞き、3人は扉へと向かう。
通路に入った瞬間、不意に地震のような揺れに4人は襲われる。
しばらくするとその揺れは収まった。
「・・・地震の揺れ方ではなかったようですね。こんな時人間ならばイヤな予感がする、とでも言うのでしょうか・・・。」
SHINOが冷静に判断しつつもそう口にする。
何も答える事の出来ないまま、4人は通路を進む。
すると1人のレイマーが通路に倒れていた。
「・・・バーニィさん!」
その男を見た時にYukaはそう叫んだ。
バーニィとは以前ギルドの依頼を通じて知り合ったのだが、それっきり彼とも会う事はなかった。
「へへへ・・・シノよ、すまねぇ・・・。旦那を守って・・・やる事が出来なかった・・・。」
苦しそうな表情を浮かべながらバーニィは残りの力を振り絞るようにSHINOへとそう告げる。
「Mist!回復してやれ!なんとかなるだろ!」
CHEIKOはそうMistに告げたが、Mistは横に首を振るばかりだった。
通常、ハンターズに入隊したものは体力がなくなった時、パイオニア2に自動的に転送される装置の付いた鎧を身につける事が義務づけられている。
ハンターズのメンバーを減らす事のないよう配慮された事だったのだが、バーニィの装備している鎧はその装置を破壊されていた。
破壊されているだけであればまだ良かったのだが、バーニィの身体そのものにも深い傷が付いており、おびただしい出血を伴っていた。
ナースとしての経験もあるMistはそう言った点を素早く判断して、回復する事は無理と判断したのだ。
「ちくしょう!」
そう言ってCHEIKOは床を蹴り飛ばす。
「おう・・・Yukaか・・・ひさし・・・ぶりだな・・・。元気に・・・やってた・・・のか?」
とぎれとぎれに話すバーニィにYukaは涙しながら返答をする。
「はい・・・。元気にやってました。」
「そうか・・・それ・・・は・・・良かった・・・。旦那は・・・この先のフロアで・・・戦ってる・・・はずだ・・・。助けに・・・行ってやって・・・くれ・・・。シノの・・・ためにも・・・よろしく・・・な・・・・・・・・・。」
最後の言葉を言うとバーニィはゆっくりと目を閉じた。話す事すら限界だったのだろう。
「バーニィさん!バーニィさん!!」
力無く横たわっているバーニィの肩を、涙を流しながらYukaは揺さぶる。
しかし、彼が目覚める事はなかった。既に意識もなくなっている事を知りつつもYukaは彼の肩を揺さぶり続ける。
それを見かねてCHEIKOがYukaを止めた。
「無駄だ。もう無駄だ。」
「・・・ちくしょう!ちくしょう!」
たった1度しか一緒に依頼をこなしてくれた事のない自分を覚えていたバーニィを助ける事がかなわなかった自分に腹が立ったのだろう。Yukaはその場で床を叩き続けた。
「そんなに悔しいならゾークを助けてやれ。今のお前に出来る事はそれしかないだろう。」
「そうだよ、Yuka君。一緒にゾークさんを助けようよ☆」
CHEIKOとMistの言葉を聞き、Yukaは涙を拭きながらゆっくりと立ち上がった。
「・・・行きます!」
熱い思いを秘めた言葉に3人はうなずく。
そして次のフロアに入った。遠くに男性が倒れているようだった。
「ゾーク!」
SHINOはその男性を見るなりそう叫んだ。
その叫び声の後に馬のいななきにも似た声が聞こえた。
遺跡の中でも強敵と言われるカオスブリンガーが彼女たちの目前へと出現したのだ。
「・・・おおおおおおおお!」
Yukaは怒りにまかせてそのカオスブリンガーの懐へと突進する。
その姿を見てCHEIKOはMistとSHINOに素早く指示を出す。
「Mistはテクニックで援護を頼む!SHINOさんはある程度近寄って武器での援護を頼む!」
2人はうなずくとそのフロアへと突入する。
「おおおおおおおお!」
狂ったようにYukaはヴァリスタのトリガーを引き続ける。
程なくしてCHEIKOもそこへと到着する。
「なるべく攻撃を避けながら援護してくれ!俺が斬り込む!」
CHEIKOの言葉も聞こえないほど怒りが頂点に達しているのだろう。Yukaはその場から引く事はなかった。
その姿を見てCHEIKOはそのままカオスブリンガーの懐に斬り込む。
「ようやく親父さんらしくなってきたな!うれしいぞ!」
「おおおおおおおお!」
ひたすら攻撃を続け、ようやくカオスブリンガーは倒れた。
「ゾーク!」
男性の倒れている元へとSHINOは走り寄る。
CHEIKOもMistもそれにつられて走り出そうとする。
肩で息をしているYukaにCHEIKOは声をかける。
「よくやったな。ご苦労さん。それよりゾークが見つかった。行くぞ!」
うつむいたまま、頭で返事をするとYukaもゾークの元へと歩いていった。
「ゾーク!」
男性に向かってSHINOがそう叫ぶと、その男性は彼女の方を向いた。
「・・・シノ!」
「あれほど・・・ここに・・・来てはならんと・・・言ったはず・・・だぞ・・・。それを・・・お前は・・・。」
ゾークと呼ばれた男性はSHINOに向かってそう言う。
「しかし・・・。」
「・・・連絡が・・・出来ずに・・・すまなかった・・・。探しに・・・来て・・・くれた・・・のだ・・・な・・・。」
「最後に・・・お前に・・・会う事が・・・出来て・・・良かった・・・。もう・・・お前は・・・これから自由の・・・身だ・・・。他の・・・アンドロイドと・・・同じように・・・ハンターズの・・・道を・・・歩むもよし・・・。」
「新しい・・・主人を・・・見つけて・・・その者の側に・・・仕えるもよし・・・。好きにすれば・・・いい・・・。」
「そこの・・・ハンターズの諸君・・・いかにも・・・私が・・・ゾーク・ミヤマ・・・だ・・・。シノの依頼は・・・この私を・・・捜す事だった・・・のだな?・・・」
ゾークの質問にYukaは答える。
「はい・・・。」
「手間を・・・かけさせた・・・な・・・。シノを・・・無事に・・・パイオニア・・・2へと・・・連れて帰って・・・くれ・・・。頼んだ・・・ぞ・・・・・・・・・。」
ゾークはそうYukaに告げるとゆっくりと目を閉じた。
「ゾーク!ゾーク!!」
意識をなくしたゾークに向かってSHINOは何度も叫んでいた。悲しげな表情を浮かべながら。 |
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