
「お、英雄さまのご帰還だ」
ギルドに戻った二人に、嘲りのこもった言葉かかけられた。
ホタルが、キッと睨みつけるも、声の主である男たちはそれを止めようとしない。
「なんたってドラゴンを倒した方々なんだ。きっと洞窟のモンスターどもは全滅だろうなぁ」
それだけでホタルがキレるには十分だった。
「だぁぁまれぇぇ!!」
サトミが止める間もなく、叫びざまソードをふりかざして跳びかかる。
が、その体が出し抜けに引き戻された。そしてそのまま地面に落ちることもなく宙吊りになった。ショートパンツのベルトを持たれているらしい。
宙吊りのまま後ろを向くとすらりとした身体が見て取れた。さらに上を見ると鋭い目つきの男が周囲を威圧していた。
その顔には覚えがあった。ナイトメア。名の知れたSクラスハンターだ。
「おろして!!」
ナイトメアに吊り下げられたままでホタルはソードを振り回した。ホタルの横薙ぎの一振りをナイトメアはトンボを切ってかわし、一呼吸でソードの懐に入り込んだ。
フォトンに包まれていないソードのフレームを両手の人差し指ではさみ、ソードもろともホタルの肩関節を極めた。
「うごくな。自分の首が落ちるぞ」
まるで魔法を見せ付けられたかのようにホタルのあごの下にソードの刃があった。
身動きひとつで本当に首が落ちそうだ。
「助かったよ、ナイトメア」
先ほどの男が話しかける。
「ドラゴンを倒したからって、調子付きやがって・・・」
「そういうおまえはどうなんだ?」
ナイトメアがいてつくような視線を投げながら問い掛けた。
「・・・」
答えに窮した男に、さらにナイトメアは続ける。
「この娘はあの猛悪な竜と戦い、それを打ち破った。それは事実だ」
「そこの娘とふたりがかりでだろうが!!」
サトミのほうを指して反論する。
「おまえたちは4人がかりでもできるのか? 珍しい武器を手に入れるのもいいだろう。だが、武器とは使うためにあるものだ。
武器の自慢をしたり、女の子を小突きまわしている暇があったら地表を散策して、行方不明者を探してこい」
そこまでいうとナイトメアはホタルを開放し、きびすを返した。
「二人に話がある。別の店で飲みなおしながら話そう」
「あ、はい!」
バツの悪い顔で立ち尽くすホタルを引きずって、サトミはナイトメアの後を追った。
何も書いてない看板を出しているその店は、デパートシップの最下層にあった。店の内装は明るくこぎれいな感じで、イリーガルな店を想像していた二人は拍子抜けしていた。
カウンターから一番離れた席に陣取ると、ウエイトレスが注文を取りにきた。渡されたメニューを見ると、ソフトドリンクしかなかった。
「ここ・・・、喫茶店?」
「飲みなおすっていうから、バーかと思った・・・」
こそこそと話す二人を置いてナイトメアはホットコーヒーを頼んだ。
「二人とも、好きなものをたのめばいい」
ウエイトレスにメニューを返しながら言った。
「じゃあ・・・、えっと・・・」
かくして二人の前の運ばれてきたものは、サトミはオレンジジュース。ホタルはなんとアイスクリームののったメロンソーダだった。
それを見て口元を緩めるナイトメアに、ホタルはますます渋い表情になった。
「あの・・・。さっきはありがとうございました。」
最初にサトミがはじめた。ナイトメアに見えない机の下で、隣のホタルの足をけって、同じく礼を言うように促す。
「世話に・・・、なったわね・・・」
ホタルの意地を張った言葉にため息をつくサトミ。しかしそれらのやり取りを見ていたナイトメアは、ますます口元をほころばせていた。だが、その見る者を射すくめる刃物のような視線だけは変わらなかった。
「さて、単刀直入に言おうか」
コーヒーを一口飲んだあと、ナイトメアがはじめた。
「二人ともまだまだ力量不足だ。洞窟に潜るには早すぎる」
まさに単刀直入だった。当然のようにホタルが反論する。
「ワタシは剣術に関しては未熟といわれたくないわ!」
「確かにそのとおりだ、ミスホタル。キミの剣術はSクラスのハンターと比較しても、決して劣るものではない。だが、その小さい体はどうだ? バイタリティはあるにしても、どうしても打たれ弱いぞ」
「っ・・・」
ナイトメアの的をついた指摘にホタルは返答に窮する。
「ホタル、ナイトメアさんの言うとおりなんじゃないかな」
見かねたサトミが言ってきた。
「ね、私達にはまだ早いのよ。もう少し地表を探索しましょ。そのうちいい防具も見つかるわよ」
その言葉にホタルが飛びついた。
「そうよ! 防具よ! 防具!! 高性能のプロテクターさえ手に入れば多少打たれ弱くても!!」
ホタルのその反応に、しまった・・・。という顔になる。
「そうか、では、いいものをやろう」
出し抜けにナイトメアがいってきた。
「リスクを負う覚悟があるなら、ついてくるがいい」
「え? あ、あの・・・」
二人を置いてナイトメアは店の外へとむかった。
サトミはホタルとナイトメアを交互に見ている。一方ホタルは思いつめた表情だった。
「・・・。まって、ナイトメア! ワタシ、ついていく!」
まるで迷いを断ち切るかのような大声だった。
「サトミ、ワタシ行く。多少のリスクぐらい!」
それだけいうとホタルはナイトメアの後を追った。
「ちょっと、ホタル! まって!」
取り残される形となったサトミも、ホタルとともにナイトメアの後に続いた。 |
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