
三人が到着したのはパイオニア2にあるハンター専用のチェックルームだった。受付の女の子といくつか言葉を交わして、ナイトメアは大きなコンテナを持ってホタルたちのところへ来た。
「こいつをやろう。使うかどうかはキミしだいだ」
ホタルの足元にコンテナを下ろし、静かな口調でナイトメアが言った。その言葉にホタルは表情をこわばらせるが、一思いにコンテナを開けた。
中から出てきたのは甲殻類の脚のようなものだった。カニの足のようなものが集まって人間のあばら骨のような形になっていた。
「なにこれ?」
立派なプロテクターが出てくると期待していたホタルは、いささか拍子抜けといった感じだった。
取り出そうと手を伸ばしたが、すぐ、その手を引っ込めた。
「動いた!?」
ホタルが悲鳴に近い声で言った。一方先ほどから難しい顔だったサトミが、ひとつの答えに行き着いた。
「寄生防具!!」
「よくできた」
ナイトメアがにやりと笑う。
「こいつはどこかのイカレタ科学者が作り出した脅威の亜生物だ。鎧と生き物。有機物と無機物を結合させたものだ」
腕組みをしたままでナイトメアが説明を続ける。
「使用者に着せるんじゃなくて棲まわせるって言うんだから、とんでもない話さ。だが・・・、その性能は折り紙つきだ。・・・どうするかね? ミスホタル?」
「やめなさい! ホタル!!」
ホタルが考えるまもなくサトミが即答する。
「多少のリスクどころじゃないでしょ! 私、聞いた事があるの、寄生されてそのまま取り殺されてしまった人や、精神を犯された人がいるって!!」
「まさにそのとおりだ。それが原因で実用化は見送られ、試作された数着が出まわるのみとなった。パイオニア1の兵の中に愛用者がいたんだろう。この寄生防具「ネルガル」との共生に成功したものが。
俺が見つけたときは、ユーザーは死体すら残していなかったよ。こいつのみが、その場に残っていた」
ホタルにしてみればそんな話はどうでもよかった。考えることはただひとつ。使うべきかどうか。
「さあ、どうするかね?」
ナイトメアが再び問いかけた。
ホタルが答えるよりもサトミが切り出した。
「お心遣いありがとうございます、ミスタナイトメア。ですがそれは私達には不必要なものです。 さ、行きましょ、ホタル」
「まって!!」
立ち去ろうとするサトミをホタルがおさえた。
数秒の沈黙。後。
「いただくわ。ミスタナイトメア」
迷いを振り切り、晴れやかに答えるホタル。その返事にサトミは息を飲んだ。
「それでこそハンターだ」
ナイトメアが満足そうにうなずく。
「どうして・・・。そうしてそんな簡単に決めちゃうの!? もしかしたら死ぬかもしれないのに!」
「ごめんね、サトミ。でも、これしか方法がないんだし・・・」
「ゆっくり・・・。ゆっくりやればいいでしょう!? 何もこんな危険なことをしなくったって・・・」
これ以上ないというぐらい心配するサトミにやさしく微笑み、ナイトメアのほうを向き直った。
「どうやって着るんですか?」
一転、表情をかたくしてナイトメアに問う。
「これを着るには身体と直接結合させる必要がある。背中にあたる部分に・・・。ちょうどその服は背中が開いているな。そこから肌に直に触れさせることになる。
そのとき触手が体内に侵入してくる。うまく共生できればそれでいい。だが、失敗すれば・・・。わかっているな」
ナイトメアの一言一言に無言でうなづく。
「では、着けてみるか」
もはやサトミは何も言わなかった。青い顔で見守るばかりだ。
ナイトメアがコンテナから取り出すと、パキパキッという乾いた音を立てて「ネルガル」が骨のような脚を開いた。その中央、背中と接する部分には触手がうごめいている。
「うしろをむいて」
ナイトメアに言われて、覚悟を決め振り向く。手のひらにはびっしょりと汗をかいていた。うつむいて目を閉じる。
ホタルの背中に静かにネルガルがつけられる。開いていた脚がホタルの上半身を抱え込むように閉じた。
ナイトメアが、一歩、二歩後退する。
静かに顔を上げ二人のほうへ向き直るホタル。サトミは口元に手を当てて、今にも泣き出しそうだった。
「意外に軽いものですね」
と、軽く言った瞬間、強烈な吐き気が襲いかかってきた!!
口を手で押さえてうずくまるが、指の間から吐しゃ物がこぼれた。
「ホタル!!」
サトミの悲鳴が聞こえたが、轟音と化した耳鳴りにかき消された。頭がぐらぐらし、体を支えていられなくなった。もはや自分が今、横になっているのかどうかさえわからない。とびきり悪い風邪をひいたように、全身に悪寒が走った。震える手で両肩を抱く。
「ホタル!!」
悲鳴をあげ、駆け寄ろうとするサトミをナイトメアが押しとどめる。
「はなして! ホタルが!!」
「落ち着きなさい、あれは正常な反応だ。拒絶反応だ」
ナイトメアがホタルのほうを見ていった。うずくまり、ガクガクと振るえるホタルは、全身で汗をかいていた。
悪寒は一向に治まらないが、次第に意識は正常になってきた。ネルガルと接触している背中からうごめく触手の感覚が伝わってきていた。その感覚が全身に拡がる。まるで体中を虫が這いまわっているようだった。
「ネルガルが彼女の身体に取りつこうとしている。言うなれば、今、ホルモン剤を注射しているようなものだ」
回復し始めた聴覚にはいってきたのはナイトメアの説明だった。
「自分の分泌物を相手の体内に入れることで二回目からの拒絶反応を押さえる」
耳鳴りが完全に収まった。全身を襲っていた悪寒も消え去っていた。静かに上体を起こす。やや頭がぼんやりするも身体は回復
していた。
「寄生は成功のようだな」
ナイトメアが静かにつぶやいた。
「ホタル!!」
ナイトメアを押しのけサトミが駆け寄る。
「もう・・・。大丈夫よ・・・」
顔中にういた汗を手の甲でぬぐいながら、そう答える。
「ホントに? 本当に大丈夫なの!?」
ホタルの前にかがみこんで、心配そうにその顔を覗き込んだ。その瞳を見つめ返して、ホタルがうなづく。
「これで万事うまくいったとは思わないことだ」
ナイトメアが出し抜けに言った。
「うまくはいったが、そいつは絶えずキミから体力を奪いつづける。それに戦闘中は、そいつが分泌する物質の負荷にも耐えなければならない。
消耗しすぎないことだ。そいつに食い殺される危険は、そいつを使いつづける限り永遠に離れんぞ」
そこまで言ったナイトメアの足元にテレポーターが出現していた。
「せいぜい、気をつけることだ」
その言葉が終わると同時にナイトメアの姿は消えていた。 |
記念すべき、「投稿!PSOノベルズ」の掲載第一号はかになべさんの作品です。登場するキャラクターの個性がどれも際立っていて、とても魅力を感じさせられます。 寄生防具に対する設定と記述はあまりにリアルで、読んでいてゾクゾクっとしました。
この先ホタルには、どんな冒険が待っているのか。気になる続きは次回UP予定です。お楽しみに!
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