音楽対談 前編

2003/10/27

今回のコラムは番外編(前編)。
9月30日、ソニックチーム内のとあるヒミツ会議室内で行われた、EP3ディレクター小川とウェーブマスター床井氏による『ニンドリ100号記念 PSO エピソード3 特製CD』についての対談の様子をお届けいたします。なお 、この模様はラジオDCのバックナンバーから聴くことも出来ます。んが!この番外編では、ラジオDCでは流れなかったところも出しちゃいます!

特製CDをお持ちの方は聴きながら読んでいただければ、ニヤニヤしちゃうこと間違いなし。持ってない人は…すみません。

ニンドリ編集部さんからも『すごく好評でしたよ!』との連絡をいただきました。すでに書店などでは見つけにくいかもしれません。ごめんなさい。

”※”部分には注釈コメントがあります。クリックしてみてね。)
 
■イントロダクション■
EP3ディレクター
小川:
(以下、小川)
東京ゲームショウのステージ(※1)でも喋ったのですが、10月6日でしたっけね?『ニンドリさんにCDつきますよ、よかったら12月10日に発売される本編サントラも買ってください』と。
そのステージでも、ちょっと"音”に関するこだわりの部分の話をしたのですが、今日は、そのこだわりについて、念願だった床井さんと対談を行いたいと。ざっくばらんにいければ、いいなぁと思ってます。
 
ウェーブマスター
床井氏:
(以下、床井)
こういう"音”に対しての直接対話というのはあまり機会がないので嬉しいですね。
 
小川: ニンドリにもサウンドスタッフのインタビュー(※2)が載るわけですが、その内容は買って読んでいただくとして、今回は小川vs床井の対談で行こうかなと(笑)。
 
床井: 今回、このゲームの音楽を担当するにあたり、小川さんのこだわりを感じることができて、作っていく中で、僕らはやっぱりゲームの音楽というものを 、もっと考えなくちゃいけないと再認識しましたよ。
結構、今までやってきたゲームの音楽の仕事というのはある1つの方向性から大きな流れ・テーマを決めてしまうと、あとはそれに沿った形でお願いしますと 言われる事が多いんですね。
だけど、今回はそのテーマのみならず、ステージごとにカラーやバリエーションを出したいとか、個々に深くディスカッションを繰り返しましたね。
 
■#2 LET THE WINDS BLOW■(作曲:床井健一)
小川: それではニンドリ100号記念のサントラに沿って、話を進めていきましょうかね。まずは、PSO エピソード3 メインテーマのお話を。

(※小川追記録 No.1※)
 
床井: はい。タイトルが『LET THE WINDS BLOW』。
直訳は『風を吹かせてみろ』という意味なんです。が、本当は『自分で何かを変えろ』という意味ですね。
今回のCDに入っているこの曲は、ニンドリ専用のスペシャルエディションなわけです。で、 これがポーランド(※3)で収録してきました。
 
小川: ポーランドね、ポーランドの話もいろいろあるんですよ。
僕が行けなかったんですよ、丁度E3(※4)対応が忙しくて。
それで中さん(※5)1人でソニックチーム代表として立ち会ってもらったわけです。…しかし、ゴージャスですよね。
最初、打ち合わせのときは、「オーケストラで録りたいんですか?」と幸崎さん(※6)に言われて「そりゃ、エピソード1&2も録ってるし…。出来れば違うムードで録りたいです!」と答えたんですよ。 そしたらこんなゴージャスなとこで!?っていうのが決まってて。
中さんからも「小川、すごいところで録るね〜。」と(笑)。
 
床井: 色々探してたんですよ。日本でも。
 
小川: 僕も絶対に日本だと思ってましたもん、最初。
 
床井: 僕も最初そうだと思ってました。で、声だけイギリスかと。
そしたら天野さんという指揮者の方が、ポーランドでずっと常任指揮者をやっておられて、それならこっちでやった方がクオリティー高いよと。
で 、もう1つの理由に欲しかった声が日本に全然いなかったんですよ。一人たりとも。
 
小川: 出た、ボーイソプラノ(※7)ね。
デモ曲を聞かされてたときに、「ボーイソプラノで行こうと思うんですけど」って聞いたときは、すごく感心したんですよ。いいセンスだなぁと。
 
床井: あら、それは初めて聞きました(笑)。
 
小川: そのアイデアは良いと思いましたもん。床井さんと何回かやりとりして持ってきてもらったメインテーマなんですけど、最後に上がってきたやつはよかったですよ。
 
床井: あれ、かなり気合いれましたもん。
 
小川: 大体、その後アレンジしてもらってオーケストラで録ると、さらによくなる事が多いじゃないですか? だから、デモ曲の段階であのぐらいっていうのは、かなり期待してました。おかげで良いものが出来てきたんですけどね。
ただ、ひとつ残念だったのはピアノ!
 
床井: 言ってましたよね〜。
 
小川: 床井さんの作ってきてくれたデモ曲では、出だしのピアノがすごく良くて。
 
床井: あれはですね、スタジオ録音的なもので作ってるからなんですよ。なので今回はホールで録っているんで、どうしてもピアノというのは ホールの一番端の奥に配置せざるを得なくて…。
それこそ大きい音で録ろうとすると、いきなりバランスの悪いすごい強いタッチで弾かないと…ってことになるので、曲がちょっと壊れちゃうんですよ。
 
小川: 床井さんバージョンも聞かせてあげたいですよ。
 
床井: マジですか!?
 
小川: 出だしの部分だけでも、ほんとに。
この出だしのピアノはデモ版の雰囲気の方がよかった(笑)。

(※小川追記録 No.2※)

でも、全体的な出来に関しては、オーケストラを使ったおかげで壮大な感じと広がりがでて、かなり良かったですね。
 
床井: あの音はコンピューターに慣れてる僕らの音とはやっぱり違うなと思いましたね。
 
小川: 今度やりましょうよ。
ウェーブマスターさん主催でPSOシリーズのコンサート
 
床井: あぁ、管弦楽団・吹奏楽へのアレンジは面白そうで興味ありますね〜。
 
小川: いつか出来るといいですね。生で聴くとやっぱり全然違いますからね。
 
床井: でも、ボーイソプラノ担当のクリスくんはかわいそうだった。オーケストラの演奏の中 、一人だけで歌うという作業だったんですけど、声がやっぱり細いし、あのオケの圧倒感に全部消されてしまって。
こりゃレコーディング出来ないなと。なので最後居残り(笑)。
 
小川: 指揮のみで居残り録音。少年なのに(笑)。ビデオでみましたよ。可哀相だった。
 
床井: 最後はかなりヘロヘロになりながら頑張ってくれてましたね。
今回の特製CDに付いているのはインストバージョンなんですけども、12月10日に発売されるサントラCDアルバム本編の方にはボーイソプラノ、クリスくんの歌っているバージョンが入っています。
…でもこれ実は2度目の収録の声なんですよ。
 
小川: バージョン2なんですね。
 
床井: そうなんですよ、バージョン2なんですよ。
1度目はどうしても声が緊張していてですね、すごく小さめだったんですね。ひょろ〜って感じで。
なので2度目を歌っていただいたら、すごい練習してきてくれたようで、えらい上手くなって帰ってきてくれたという。
すごい力強かったし、ファイルが届いたときにはみんな「お〜、すごいじゃん!!」、「やればできるんじゃん!」と。
 
小川: 1回目はほんとかわいそうな感じでしたもんね。 わざわざ、収録して日本に戻ってきて編集してもらったんですけど、聞かせてもらって、ダメです!ってダメだしして、取り直してきてもらいました。
PSO EP3 トライアルは間に合わなかったのでバージョン1を使用しています。なので、お持ちの方は製品版と聞き比べることができますね。持ってる人のお楽しみということで。
 
床井: そんな楽しみ方も実はあったり(笑)。
 
小川: そうそう、今回のニンドリのサントラの曲選考は僕がやらせてもらったんですが、あ〜こう、あ〜こう、すっごい忙しい中(苦笑)。死ぬかと思うくらい、あ〜こう 、言ってやってもらって。
 
床井: そんなにその作業に割く時間あったんですか?って聞きたくなるぐらいの、無い時間を削っていただいて。
 
小川: 夜の3時に家に帰って5時6時まで聴いて、朝、会社に出社してから電話で「やっぱり…」みたいに。
 
床井: 「最初にいただいたCDは5回聴きましたが、やっぱりあのラウムの神殿を…」みたいなやり取りを ね。
 
小川: 通して聴くと30分近くありますからね。5回も6回も聴くとそれだけで3時間とかかかっちゃう。泣きそうになりながら聴いてましたよ(笑)。

最初、収録タイトルのリストを軽く出したときに、このメインテーマは、「声なしバージョンを入れる」と聞いて、実はちょっと心配したんですよ。
以前、声なしバージョンを聴いたときにはアレンジもされてなかったので、「ほんとに大丈夫かな〜?」と。でも、結果はバッチリでしたね。思ってたより全然良くて安心しました。
「声なくても全然良いや!」と。
 
床井: スタジオで頑張りましたからね。かなり時間かけてやりました。一部分、声が無いと成立しない箇所もあるんですけど、それでもかなり聴ける曲になっ てたんで、今回は特別バージョンということで。
 
小川: 声が入ってると、やっぱり声に少し引っ張られるんですけど、本当の持ち味というかオーケストラの凄さが 、この声なしバージョンには出ていて良いなぁと。
よかったですよ。「これだけでいいじゃん!」くらいの感じでしたよ。
 
床井: ありがとうございます。
 
■#3 Gate■(作曲:小林秀聡)
小川: 次、ファイルセレクトのところの曲ですね。小林くんの。これも何回もやり取りしましたよ。

(※小川追記録 No.3※)
床井: これ、小川さんとのやり取りが結構あったので、小林くんに「とこいさ〜ん、どうしましょ〜?」と(笑)。
 
小川: すごく僕が力を入れてた曲がメインテーマと、このファイルセレクトの曲です。この2曲は本当に力をいれていたので、注文もうるさかったですね。
 
床井: 構成的なモノのアドバイスとかを小林くんも僕に聞きにきたりしてて、色々アドバイスしてたんですけど、小林くんの中にもどうしても「切っちゃヤダ!」とか葛藤があったようで、そこらへんですごい悩んでましたね。
でも結果を見るとすっごい良くなりましたね。
 
小川: はい。かなり良くなったと思いますよ。
特にゲームをやると、ここの曲のインパクトでゲームにぐっと引き込まれる感じが出たかなと思ってます。

僕の思い描いていたモノにすごく近い感じで最終的にはあがってきたので、色々やり取りした甲斐があったなぁと思いますね。
 
床井: かなり深夜まで、やっておられてましたよね。
 
小川: えぇ、小林くんには申し訳ないことをしたなぁと。でも担当してもらってよかったと思いましたし、小林くんのテイストもよく出てましたしたからね。
 
床井: 小林くんカラーがぐっと出てる曲ですね。
 
■#4 Unguis lapis■(作曲:熊谷文恵)
小川: 次はアンガス・ラピスですね。これも最初に上がってきたものは注文通りではあったんですが、もう少し自然っぽい ものに変更してもらったり、しましたね。
 
床井: ゆるいというか。
 
小川: 最初は、人が住んでそうな感じの音が入っていたんですよ。だから、ちょっと人がいないような場所なんでと説明して、何度か作り直してもらいましたね。
 
床井: 最初から、あのステージは神秘的というか、シーン…とした周りと違う世界というか。あんな曲ってあまりゲームでは作らないんですよね。
 
小川: アンガスって特にうちの開発でも最初に作ったマップだったので、グラフィック部分も、結構テコ入れして、力をいれて、最後まで形が変わっていったマップでしたね。 よく今回のゲームは「デジタルとアナログの融合したゲームでいくよ」と言っていたんですが、このマップはエピソード3を代表するアナログな方向に近づいたマップだと思います。
今回、マップはゲームを通して『光と影』をテーマにやってたんで、そういうのが意識されてるマップなのかなとは思いますね。
 
■#5 Tower of "Caelum"■(作曲:床井健一)
小川: これ、どうですか?タワー オブ カエルム。床井さんの曲ですが。
 
床井: これ…。実は5分越えてるんですよね。すごいなが〜い感じで(笑)。
1つメインメロディーを作って前後でアレンジ違いにしてるんですけど。これを作ったのって、ゲーム制作の前半から中盤にかけての頃だったんで。風車の面と…、
 
小川: あれは「風車」じゃないですよ〜。開発の中での略称です、それは(笑)。 あそこの名前は、モーラ ヴェンティです。
 
床井: (笑)。モーラ・ヴェンティとかですね、モルティスの泉とかと同時期に作っていたので雰囲気がとても似ている…、悪い意味だとすごく似ちゃってる。ただ、ここは最後に向かって変わるということを考えたので、同じ雰囲気を持ちつつ最後には全然変わってしまうモノを作ろうと。
その方がメリハリつくと思ったので。
 
小川: 途中から変わるあたりとかのノリがすごくいいですよね。
 
床井: スパッと変わろうかとも思ったんですけど、徐々にの方がいいかなぁと。ちょうど徐々に外界が見えてくる感じと合って良いかなぁと。
 
小川: 床井さんらしい曲なんですかね?
 
床井: そうかもしれないですね。ピアノメインで作ってしまう事があるもんで。どうしてもピアノ中心の曲が増えてきますね。
 
小川: もっとピアノを押せばよかったですね。
 
床井: あ、そうですか?(無念そうに)あぁ〜…。
 
小川: ソニックアドベンチャーの時にナックルズの曲を担当してもらったんですよね。それがジャズっぽかったので、てっきり「これが床井テイストなのかなぁ」と。そのテイストが結構好きだったんですけどね。
 
床井: そうなんですよ。僕、2つに分かれてしまうんです。
ファンクとかソウルとか大好きでそっちが得意なのもあるんですけど、もう1つピアノメインも大好きで。ピアノ1つだったら、すっごい楽しくやってます。
 
小川: マジっすか!?
最後の方は、それでお願いすればよかったかなぁ?
 
床井: イヤイヤ、イヤイヤ…(笑)。
 
小川: 「ピアノが結構いけるんですよ」みたいな話を聞いてから「しまったなぁ」と。どうりで床井さんの出してくる曲はピアノが光ってる曲が多いなぁと思って。
 
床井: ナマモノ使うことが決まった瞬間から、こりゃもうピアノでしょう!と。
 
小川: なるほど、なるほど。
 
床井: ポップス系なモノが多ければ自然とピアノもローズピアノ(※8)、オルガンとか。アナログ、オーケストレイションに録るのであればピアノといった感じでよく作ってますね。
 
■#6 Ravum Aedes Sacra■(作曲:熊谷文恵)
小川: ラウムの神殿も結局入れてもらったわけですが…。
 
床井: 長かったですよね、やり取りが(笑)。
 
小川: やり取りが(笑)。
 
床井: 5、6日くらいで決まりましたね。
 
小川: 毎日あ〜こ〜言って。曲を入れるかどうかだけで何でこんなに悩まなきゃいけないんだと。
最初はラウムが無くてカエルムもなくて、代わりにヴィア・タバスを入れる予定だったんですよね。

特製CDを作る最初にミーティングをしたときに言ったんですが、まずはPSOのエピソード1&2のOP・ED、これとウチのメインテーマ曲は必ず入れたいと。
「こんなゴージャスなモノを雑誌に付けていいのか?」と各地から言われたわけですけど、みんなを無理矢理説得して回って。なんとか通した結果、 あがってきたサンプルCDを聴いたら、逆にウチの曲が弱くなってない?と心配になってしまって(苦笑)。
CDを通して聴いたときに、やっぱりエピソード1&2のメインテーマ、エンディングが後半に3曲続くと、そっちに印象が引っ張られてしま うんですよね。さすがにエピソード3スペシャルエディションなんだからエピソード3の曲で完結して、「あぁ、お腹いっぱいだぁ。え?さらにオマケでエピソード1&2も付いてくるの?」みたいな感じにしたかったんですよね。
 
床井: そうなるとエピソード3のオシリの曲というのは「これで締め!」という感じにしないといけなくて。ヴィア・タバスだと物足りなさがあったと。
 
小川: アルバムとしてみると、そこから壮大なエピソード1&2の3曲へ繋ぐという意味ではアリだったんですけど、エピソード3というものを少しでもわかってもらおうと考えると、もう少し締める必要があるなぁと。
当時でも既に26分とかあったにも関わらず1曲追加して…。
 
床井: これを入れればこれはもう、流れも良いし大丈夫だろうと。
 
各楽曲にまつわるエピソードをそれぞれお二人に語っていただいた前半ですが、後編は怒涛の特製CDにまつわる裏話編です。
「こんなゴージャスなモノを雑誌に付けていいの?」と皆に心配された今回の特製CD。そのゴージャスな内容を実現させるまでには、たくさんの裏話が誕生しました。記事にするには危険な、あんなネタやこんなネタも…。

後編もお楽しみに!

 
床井さん、小林さん、熊谷さんの関わった他の作品を知りたい方はコチラもチェック。『スペースチャンネル5』や『頭文字D』なんて意外(?)なタイトル名も。
あなたのプレイしてきたそのゲーム、実はウェーブマスターサウンドだったりするかもですよ。

【#1,#2,#5 床井氏 プロフィール】
【#3 小林氏 プロフィール】
【#4,#6 熊谷氏 プロフィール】(WAVEMASTER ホームページ内)
 

後編に続く