Hitmakerのスタッフによるリレーコラムです


はじめまして。工藤と申します。
「オレと必殺」というお題を頂いたので、「中村主水(なかむらもんど)」について紹介したいと思います。

1972年「必殺仕掛人」で幕を開けた時代劇・必殺シリーズ。主人公が「殺し屋」という反社会的な基本設定は常に危険な魅力を漂わせ、20年間に30作ものシリーズが生まれました。「中村主水」はこの必殺シリーズを代表するキャラクターの一人です。

中村主水。

表の顔は怠け者のダメ同心。体制に媚びを売り、セコく、欲深く、卑屈で、誰よりも能天気で呑気に生きているような男。

だが、裏の顔は金ずくで晴らせぬ恨みを晴らす暗殺者であり、誰よりも人間の醜さを知り、無力を知り、弱者の悲しみを知り、そして誰よりも悪を葬る「殺し」の快感を知る男。

中村主水は北町奉行所の定町廻り同心(現代で言う警察官。武士の身分なので相応の権力を持つ)で、普段は根っからの怠け者です。同心という立場を利用して小悪党や町人から賄賂をたかり、肝心の仕事となるといつも失敗してばかりしています。そのため、仲間内から「昼行灯」という不名誉な異名を授けられています。また、先代から同心職であった中村家に婿養子に来た身であるため、姑と嫁には全く頭が上がらず、期待の跡継ぎもままならないことから、家でも「種無しカボチャ」という不名誉な異名を授かっています。
甘いもの、うどん、そばが好物で、酒はからっきし駄目でしたが、歳とともによく飲むようになります。趣味は釣りと将棋とへそくりです。

そんな冴えない絵に描いたようなダメ中年の彼ですが、闇に潜れば「金を貰って晴らせぬ恨みを晴らす」最強の暗殺者に豹変します。
見た目の風貌では想像できない技量と頭脳の持ち主で、奥村神影流免許皆伝をはじめとする多数の流派に精通する剣腕と、常に一手二手先を読む鋭い洞察力の持ち主でもあります。武器は長刀と脇差で、その恐ろしいまでの強さで数々の暗殺を遂行していきます。
裏稼業においては非常にドライで、仲間を全く信用していない一面を持っています。事実、自分の身を守るために仲間を殺そうとする場面が幾度となく描かれています。

中村主水はシリーズ第二弾「必殺仕置人」で準主役として初登場しました。
勤務先の奉行所で起きたある事件をきっかけに、表稼業では太刀打ちできない悪人を葬る手段として、佐渡金山で知り合った盟友「念仏の鉄」「棺桶の錠」と共に闇の私設暗殺集団「仕置人」を結成、あえて「昼行燈の種無しカボチャ」の呼び名を隠れみのにし、思う存分に悪をいたぶり地獄へと葬る暗殺者となります。悪人を超える極悪人「仕置人・中村主水」の誕生です。
その後、中村主水は数々の晴らせぬ恨みをはらし続け、果ての無い地獄道を歩み続けることになります。

さて、必殺シリーズといえば一世を風靡した「必殺仕事人」シリーズを思い浮かべる方が多いと思いますが、「必殺仕事人」はシリーズ七年目の第十五弾から登場したタイトルであり、ちょうど中間にあたります。このタイトルを境に、必殺シリーズは大きな変貌を遂げています。「必殺仕事人」以前を「前期」、以降を「後期」として作風を分けることが出来ます。

前期シリーズでは非常に濃厚な人間ドラマを描いた作品が数多く存在しています。悪人に焦点を据えた演出、暗殺者として生きる主人公達の苦悩や葛藤が綿密に描かれています。後味の悪い、救いようの無い結末を迎えるドラマも度々あり、これが必殺シリーズの何ともいえない魅力の一つでもありました。
その人間ドラマを代表するキャラクターが中村主水であり、豪快な太刀捌きで暗殺を遂行する非情の暗殺者、何の躊躇も無く金を貰い、晴らせぬ恨みを晴らすプロの暗殺者として描かれています。

一転して、後期シリーズでは暗殺者達は正義の味方のような演出がなされ、悪人ではなく弱者に焦点を置くことで解りやすいドラマを提供し、暗殺シーンも派手に演出するようになりました。このような作風が一般に大うけし、人気が急上昇して一大ブームを巻き起こしました。しかし、暗殺者を正義の味方として描く以上、ドラマ性が希薄となってしまうのは必至で、シリーズの毒々しさは失われてしまいました。
中村主水もまた、正義の味方のような言動を見せるようになりました。

とはいえ、私は後期必殺シリーズを批判する気はありません。後期シリーズで描かれる中村主水の背中には独特の哀愁が漂い、そこに前期シリーズで描かれてきた中村主水の苦悩や葛藤を重ね合わすことで、果ての無い地獄道を歩み続けてきた暗殺者・中村主水の生き様が見えてくるような気がします。
「昼行燈の種無しカボチャ」中村主水。「闇の暗殺者」中村主水。
屈折した正義感の持ち主であるが故に、正直者であるが故に、極悪人に成り果てた男。
彼こそが究極のピカレクスヒーローだと、私は思います。

次回は前々回のコラム執筆依頼をブッチした「頭文字D」シリーズのディレクター、マッツーさんこと松本功さんにお願いします。
お題は今度こそ「僕と藤子不二雄」でよろしくお願いします。


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■工藤 修吾(デザイナー)
「頭文字D」チームのチーフデザイナー、工藤さんでございます。
入社6年目で、その前はCSKグループのとある会社でサラリーマンをしていたそうな。
趣味でやってたCGを活かしたいと努力に努力を重ね、見事、デザイナーとしてセガに入社したという変った経緯の持ち主。
現在は開発ピークで血を吐くほどの忙しさ(比喩ですよ比喩。長野のご両親、心配なさるな)。開発がエンドを迎えたら、温泉でもいってゆっくりしてきてくださいね……。
あと、ヒットメーカーに大勢いる“ミリタリー大好き部隊”隊員。

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