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どうも、ラグオルで日々冒険をしているチェストという者です。

今回、クエスト『ハンターの右腕』後に人知れず起きた話、という設定で物語を書いてみました。
到らない部分が多く、オリジナル的な要素も大きいのですが、それなりに納得して読んでもらえればありがたいです。

 ハンターズと言えば、ラグオルを探索する腕に覚えありの強者達。
 彼等のいる所に数々の武勇伝が刻まれていくが、そこにはもう一つ見落とされがちながら重要な事柄がある。
 それは戦うための武具や回復薬の存在、つまりアイテムの流通だ。
 剣術で右に出る者のないハンターに剣が無かったら、抜群の命中力でガンスリンガーを気取るレンジャーに銃が無かったら、ずば抜けた精神力で高等なテクニックを覚えたフォースもフルイドを切らしたら。
 まあ、アイテムは冒険に深く深く関わっている物で、俺はその流通に携わる仕事に誇りを持っていた。

 俺の名前はコルム。
 ハンターズギルドに所属するフォニュームで、鑑定士の資格も持ち、ハンターズ内でのアイテムも一部取り扱っている。
 肩書きは多いが本業は中古屋の店主で、普通のショップとは違う形式で品が動く『人から人へのアイテム売買』の仲介役もやる。
 誰かの倉庫で眠る不用品が、今誰かが一番欲しいアイテムだというのはよくある話だ。
 ワンランク上が手に入ったからと預けたままの鎧や盾、希少価値は高いのに職業的な条件から使えずにサビついていく武器達。
 持っていても、ベースになるアイテムがない合成用アイテム。
 それらを処分したい者と欲しい者とを紹介し合い、売買を成立させたり、不用品を物々交換などで手前の商品として仕入れたりする。
 仲介役の仕事を簡単に説明するとこんな所だ。
 売りたい奴、買いたい奴、それを仲介したり下取りする俺、誰もが得をして宝は持ち腐れずに適材適所になるから良い事尽くめ。
 要するに古着屋やジャンク屋みたいなもんだが、使い勝手が良いと評判でそれなりに繁盛させてもらっている。
 信用一番が大切なだけに、何より心がけているのは紛い物や違法な品は絶対に扱わない。
 ブラックペーパー辺りから横流しされたようなものはどんなレアなお宝だろうと、こっちから徹底的に突っぱねる。
 そんな清潔さと便利さをモットーとした、居住区の隅にある俺の店にはありがたい事に今日も午前中から客足が途絶えない。
 嬉しい悲鳴というやつで、次から次へと接客だ。
「このヤスミノコフ7000Vは掘り出し物だ、年代物にしては動作不良もないし、威力も実用性もバッチリ、レンジャーなら垂涎の銃……って、ダンナはアンドロイドだから涎は垂らさないか」
「DBの剣? クリス社のは在庫切れだな、他は全部あるよ」
「コンバットギアなら売りたいって人はいるよ、スタンドスティルとなると下取りの約束はまだ取りつけてないなあ」
「注文のバトルバージとカスタムバリア入ったよ、今回はオマケでフルイドの詰め合わせ付けとくから」
「こいつを一本半価で取引してくれって? 駄目駄目、シノワレッドの腕は両方揃って売り物なんだから」
「この鎧なんてどう? 今あるのはこの一品限りなんだが、ハートが出るから可愛いって女の子に人気のアイテムだよ」
 仲介の予約や売買の交渉、時には人だかりも出来るほど。
 最近ナウラと提携で秘密裏にケーキを売り出した事が知れたのか以前と比べて目に見えて女性客も多い気がする。
 武器や防具などの保証はするが、ケーキを食べ過ぎてどんな体型になってもその保証までは出来ない。
 よって、痩せたい、なんて依頼がギルドに殺到してもその件について俺に非はないだろう。
 それにしても、アイテムを扱う商売は本当に楽しい。
 かれこれ22年生きてこれから何歳まで生きられるか分からないが、それだけにやりたい事をやり続けていたい。
 アイテムに囲まれて最高の充実感を得られるのは、俺が生まれついてコレクターだからかもしれない。
 精神的に満ちた感覚を味わうたび、これが天職だとつくづく思う。


 一旦客足が引いた頃には、パイオニア2内を照らす人工の陽光は正午過ぎを指していた。
 遅めの昼食のサンドイッチをくわえながら、在庫管理なんかをやっているとキャップを頭にのせたレイマールが店を覗いていた。
「今日も商売に精が出るね」
「ああ、アンか、ボチボチだよ」
 アンは常連客で冒険の時はよく連れ合い、普段は無駄話なんかする仲だ。
「突然なんだけど、ゾークが三本の刀を使っていたのは知ってるよね?」
「豪刀ゾーク? 知らない訳がないだろ、この俺が」
 ゾーク・ミヤマ、この名前を知らなければハンターズではもぐりだと言われる凄腕のハンター……説明する必要も無いくらいに。
 三振りの刀を用いて縦横無尽に立ち回るゾークの勇姿はどのハンターも一度は憧れるもので、俺も剣で戦いはしないが、彼の熱烈なファンだった。
 そんな彼の愛用していたのが夜叉、神威、散華というあれこれ曰く付きの刀剣。
 ゾークが古代遺跡で死亡してから、刀の行方は色々と噂されて、公的に保管されているとか、未だ行方不明だとか、腕の立つハンターが回収して所有しているとか……一通りは聞いたがどれも信憑性はいまいちだ。
「で、それがどうかしたのか?」
「それがさ、四本目の刀があるって話を聞いたんだわ」
「四本目? それって伝説の四刀の一本、オロチアギトの事か?」
「違う違う、それとは別のを所有してたんだってさ」
 別の刀ってのはどういう事だ?
 所持者の命を吸う呪い刀だとか、未だに鞘から抜けない太刀とかの噂は聞いた事があるが、ゾークが別の刀を持っていたという話は聞かない。
「確証はあるのか? 有名人の秘蔵武器、なんてガセネタや売り文句はこの業界じゃよくある事なんだぜ?」
「確証って言われると……最近広まり始めた噂らしくて、私もどこの誰とも知らない人達がそう言ってるのを小耳に挟んだだけだからさ」
 ふーん、と相槌を打っていると、会話を区切るかのようにアンのハンターズツールからメール受信の音がした。
 彼女は内容を確認すると、少し慌てた素振りを見せる。
「もうこんな時間、依頼人と会う約束してたんだった」
「これから仕事か、頑張ってこいよ」
「うん、邪魔したね、掘り出し物が入ったら連絡入れてよ」
 ギルドへ向かう背中を見送ると、俺は在庫管理の作業を中断した。
「刀、か」
 何気なく聞くふりをしていたが、俺の内にはふつふつ湧く物があった。
 商売人という事を差し引いても俺には武器への熱いこだわりがある。
 無駄使いする旦那を注意してくれという依頼で説得するはずの旦那と意気投合して、終いには二人してカミさんに怒鳴りつけられた事があるくらいに、俺には確固たるこだわりがあるのだ。
 銃器や杖も良いが、今はアンティーク品扱いとなる金属製の刀剣となると目が無い、何か逸話付きなら尚更に。
 よく出回る噂なのは承知の上で、ちょっと真偽だけでも調べても良いかもしれない。
 儲け話云々ではなくて、これは俺のアイテムへの探究心だ。
 思い立ったが吉日と店に、
『本日都合により、午後から休業』
と看板を立てて、俺は行動を開始した。


「ゾークの刀か、ふむ」
 どこかの王様みたいな格好をしたヒゲのニューマンは、そう頷いた。
 俺はコレクターのパガニーニを訪ねていた。
 間抜けなドラ息子、もとい個性的なご子息を通じて顔見知りになり、コレクションから何度か取引をした事もある。
 調べられるデータベースをメインからローカルまで当たってみたが情報がまるで掴めない状態、そこでパイオニア2でも自他供に最高のコレクターと認める氏に会う事にしたのだ。
「ええ、そうなんです、噂を聞きつけまして」
「それでわしの所にか」
 ヒゲを手入れするように撫でながら言って、彼は言葉を続ける。
「ゾークと言えば、かのヒースクリフ・フロウウェンやドノフ・バズと肩を並べ、生きながらにして既に伝説となっていた男」
「そうです、まさに歴史に残る刀の話だと思いまして」
「それが本当なら大変魅力的な話だが、単なる噂というやつであろう」
「え?」
「それほど貴重な物があるのなら、とおに正確な情報がわしの所に
入っているだろう」
「情報は、何もないんですか?」
「ああ、知らんな、全くの初耳だ」
 世界に二つと無い珍品を数多く所有していて、コレクションに関わる情報の入手ルートはちっぽけな商売人である俺とは比べ物にならない氏本人が裏も無く、知らないと断言するとはなんて嫌な説得力だろうか。
「まあ、出所も不明瞭な噂には期待はしとらんが、もし手に入ったらその時は是非商談の椅子につかせてくれ」
「あの」
「すまんが、今日はこの辺にさせてもらおう。 息子が連れてくる客人とアレの取引をしなければならんのでな」
 多忙そうにラボの奥へとさがっていくパガニーニを見て、俺は肩を落とした。
 ギルドを通して折角ラボへの入所許可を得たのに、無駄足だったな。
 コレクターの頂点であるパガニーニがあの調子なら、他の収集家に聞いた所で返事は変わらないだろう。
 こうなれば直接ゾークにゆかりのある者を当たってみたい所だ。
 とは言ったものの、彼は堅物で有名だった人だ。
 フロウウェンやドノフとは知り合いだったらしいが、二人とも故人だし、他に深い仲の知り合いがいたかどうか。
 よくレンジャーと探索に出ていたと聞いた事もあるが、そのレンジャーがどこの誰なのかも見当が付かないし……。
「待てよ……彼なら、何か知ってそうだ」
 しばらく頭を捻ってみて、ふと気付いた。
 俺がショップを経営しているからだろうか、人間関係より、まず持ち物に考えが向いた。
 俺が追うのは刀、刀剣と言えば詳しい知り合いがいた。
 嫌味なスタッフが大勢いるラボには長居は無用と、俺は急いで居住区へと戻った。