「あたしなんか何年執事をやっていても失敗が絶えませんで。それもまぁ、体がうまく動かないこともしばしばあるのですが、でもやっぱり、ファクトさんのほうが素晴らしいお仕事をなさっておいでで。なかでも、ファクトさんの入れるコーヒーは、抜群のお味だとか」
「いえいえ。大のコーヒー好きなマスターでありますので」
「私も飲めるものならば、ぜひ頂きたいですよ〜。そういえば、ファクトさんのご主人様のお坊ちゃんは、おいくつになるのでしょう?」
「今年で10才になります」
「おお〜おめでとうございますですよ〜。一段とやんちゃを覚える時期でございますね〜」
「私も成長を日に日に感じています。この間の事になるのですが、ふざけ半分でテクニックを私に撃ってきまして」
「おお〜。元気でやんちゃな男の子でございますね〜」
「はい。そうですね。その後、こっぴどく怒られていたようですが」
「ああ〜きっとこれからファクトさんも、お坊ちゃんの愛情を一杯に受けながら吊るされるのでしょうね〜」
「吊るされる?テイフー様。残念ながら私の家には、手入れが必要な庭木はございませんので・・・」
「ああ〜!そうですよ!ファクトさんに楽な吊るされ方を伝授して差し上げなければっ」
「はぁ、そうですか。ありがとうございます」
「まず、じたばたせずに気持ちをリラックスするのですよ。そして、長時間放置されるかもしれませんので、できるだけ関節に加重がかかりませんよう四肢の動きを制御なさってですね・・・・・」
テイフー様は素晴らしい方だと思います。庭木の手入れの仕方まで丁寧に説明してくださるのですから。そんなテイフー様とちょっとしたご縁から親しくなれたことを、心からうれしく思うのです。
「・・・・・というわけなのでございますよ。ファクトさん」
「承知しました。ありがとうございます」
「いえいえ。ファクトさんのこれからのお仕事に活かせるならば、あたしのほうがありがたいでございますよ〜。って、もうこんな時間ではございませんか!」
「今日はなにかあるのですか、テイフー様」
「ああ〜まずいでございますですよ〜。いやですね、あたし、これからカードラボというお施設に奉公にいくことになりまして。今日はお嬢様とそこにご挨拶に行くことになっているのですよ。ああ〜急がないとまたお嬢様に吊るされるでございますよ〜」
「そうでしたか。では、今日はこの辺で、おひらきに致しましょう」
「申し訳ありません、ファクトさん。また来週よろしくですよ〜」
「いえいえ。私からもよろしくお願いします」
ギニョーン、ギニョーン
「テイフー様」
「なんでしょう、ファクトさん」
「ぐっどらっく」
「ああ〜ありがとうございます。あたしなんかにはもったいないお言葉。不肖テイフー、がんばらせていただきます。それではファクトさん。さようなら」
「さようなら、テイフー様」
ギニョーン、ギニョーン
テイフー様は頑張り屋さんでいらっしゃる。私のマスターと同じか、それ以上かもしれません。さて、そろそろ私も家に戻らなければなりません。朝食の準備をして、家族を起こさなくてはいけませんので。それではまた何処かで。失礼します。
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