PSOみんなの広場





 ―――失踪事件が誘拐だったと分かったのは、大分経ってからであった
物静かで控えめな幼なじみ―――だけど、失踪する訳がないとシンは信じていた
特別だったから―――唯一、心を許せる人だから―――シンは信じ続けていた
偶然街中で会話していたハンターズ達の言葉が、全てのきっかけであった
最近多発している失踪事件―――実はあるハンターズが絡んでいる、と―――
それからシンは駆け回り、噂の真偽を確かめた
答えの代わりに、変わり果てた幼なじみの姿が発見された―――
用済みと感じたのか、それとも尻尾を掴まれた腹いせか―――犯人は彼女を殺した
復讐するには、自らハンターズになるしかなかった

 「どうしたの〜?」
何も知らないジニーの言葉に、シンは現実へと帰ってきた
「いや、別に・・・。それより、君は何でハンターズを目指しているんだ?」
バイクの鏡からの不意打ちに、言葉を失うジニー
「確かに金にはなるけど危険だし、下手をすれば命だって落としかねない仕事だからね。それなのに、何でハンターズを目指す?」
ジニーの表情が、一瞬だけ曇った
まるで太陽が突然その輝きを失ったかのような錯覚に、シンは慌てて付け加える
「あ、その・・・言いたくなければ、いいんだ。同じ再試験仲間だからってプライベートまで立ち入るのはよくなかったよね・・・。」
だが、帰ってきたのは筋違いな単語であった
「お姉ちゃん。」
「え・・・?」
「ラグオルに降りてったパイオニア1にいる、お姉ちゃん・・・。ラグオルに降りてセントラルドームまで行けば、きっと会えるから・・・!」
ハンターズでなければ、ラグオル地表に降りられない―――それが政府の言葉であった
それから黒い噂がどこからともなく流れ、パイオニア2ではそれが当たり前となっていた
パイオニア1の人々は、もう―――
「会えるよ、必ず。」
思うよりも先にシンは口からその言葉を零した
「でも・・・。」
「僕がきっと会わせてあげる。一緒に探そう。君のお姉さんを。」
バイクの鏡からジニーの顔が見えなくなった
見てはいけないな―――シンはとっさにそう思った
バイクは明かりの少ない街中を一直線に走り抜けていった

 「いた!」
真夜中のオフィス街に一人たたずむ赤いボディのレイキャスト―――ユーダ
向かってくるバイク目掛けてショットガンの引き金を引いた
「飛べ!」
二人は同時に飛び降り、無人のバイクにフォトン弾が命中する
バイクは火を噴きながら転がり、それを交わしたユーダの背後で爆発した
『道を断たれた・・・また時間稼ぎか。』
「今度は勝たせてもらう。覚悟を決めろ!」
ライフルを構え発砲するが、ユーダはシールドで全てを防ぐ
『先程と同じ策か。浅はかな・・・。』
「ぜんっぜん、違うよ〜だ!」
瞬時に間合いを詰めたジニーが大剣を振り落とした
冷静に交わすユーダに、容赦無くライフルのフォトン弾が襲う
『くっ・・・!まさか連続攻撃か!?』
「そうだよ!いくら避けるのがうまくても、これだけ攻撃すればいつかは当たるよね!」
攻撃もできず、防戦一方のユーダに容赦無く二人は攻撃する
そしてシールドで大剣を防ぐユーダのアイテムボックスに、フォトン弾が命中した!
『ぐっ、貴様・・・!』
突然の衝撃にユーダは肩膝を地についた
「隙あり!ギバータ!」
ジニーの氷属性のテクニックが、ユーダのボディを凍りつかせた!
「今だ!!!」
ジニーはソードを構え直し、シンもセイバーを片手に飛び出した
『フリーズ。』
突然周囲が凍りつき、二人は身動き一つ取れなくなった!
「これってまさか、フリーズトラップ・・・!?」
「そんな・・・トラップビジョンで注意していたのに・・・!」
氷が砕け、自由になったユーダは静かにショットガンを構えた
『女を死角にし、援護射撃をしながら追い込んでいく。実にいい策だったが、一つだけ穴がある。―――それはこの女のせいでお前にも死角が生まれることだ。』
「まさか、わたしのせいでトラップが隠れて・・・!」
『これが経験の差だ。』
ユーダはその銃口を、ジニーの胸に合わせた
「やめろ、ユーダ―――!」
銃声と共に無数のフォトン弾がジニーを襲い、氷ごとその体を後ろへ吹き飛ばした
スローモーションのように、ジニーはゆっくりと地面へと倒れた
「ジニー・・・ジニー!!!」
粉々になった氷に大量の血が広がり、ジニーは身動き一つ取らなくなった
『案ずるな。次はお前だ。』
心なきユーダの言葉に、シンは凍りついた手でセイバーを強く握り締めた
そしてゆっくりとユーダはシンに狙いを定めた
「お前・・・!」
『ファイア。』
ユーダが引き金を引くよりも早く、セイバーを握るシンの手が氷を打ち破る!
「お前―――!!!」
振り落とされたセイバーがショットガンの払い、ユーダの手から落とした
『ちっ・・・ならば!』
セイバーの届かない場所まで退き、ユーダはマシンガンを構えた
『動けるのは右腕だけ。更に銃は氷の中。勝利は揺るぎないようだな。』
「諦める・・・!」
『ファイア。』「ものかーーー!!!」
シンが雷のテクニックを唱えると同時に、ユーダがマシンガンの引き金を引いた
体の動きを封じる氷の上から無数のフォトン弾が突き刺さり、シンは後ろに吹き飛んだ
同時に雷鳴が轟き、ユーダのボディに電撃が突き刺さった
『排除未完・・・!時間が、ない・・・!任務続行を・・・優先・・・する・・・!』
言うことの聞かない体を無理矢理動かし、ユーダは闇の中へと消えていった
 「げほっ、げほっ!ジニー・・・!」
立ち上がろうとするが、シンに予想以上の脱力感が襲い掛かった
(足が動かない・・・いや、全身に力が入らない・・・!)
アーマーが砕け、肉体にまで想像以上のダメージが及び、血が辺りを赤く染めていった
視界がぼやけ、強い心を待たなければ意識が簡単に飛んでしまう
(もう・・・ダメか・・・。)
迫る永遠の眠りに、シンはその身を預けた

 「アヤ・・・!!!」
変わり果てた幼なじみの名を、無意識で言葉にした
彼女の死を告げられてからその姿を目にするまで、シンは決して信じなかった
悪い夢だと、シンは願い続けた
だが、彼女は―――アヤは死んだ・・・
「僕のせいだ・・・僕のせいで、アヤは・・・!」
闇よりも深い悲しみは、いつしかアヤを殺したハンターズへの怒りに変わっていた
そんなことを―――彼女が望まないことを理解しながら
復讐に意味がないことも、理解しながら―――
(本当は、ハンターズなんてどうでもよかったんだ)
漆黒の闇の中で、意識だけが呟いた
(強くなりたかった)
言の葉が雪のように闇に舞い落ちる
(アヤのような人を、それで悲しむ人を出さないために、強くなりたかった)
雪は次々に降り注ぎ、闇をその白で染めていく
(目の前の人を、護りたかった)
闇はやがて白に飲まれ、世界は白に包まれていく
(アヤを護れなかった分だけ、僕の手で・・・)
世界が完全な白に染まると、意識は現実へと引き戻されていった

 重い瞼を開き、モザイクがかかる視界がはっきりすると、そこにはジニーがいた
(―――そうだ・・・また、同じことを繰り返すところだった・・・!)
残された力を振り絞り、石のように重い体を腕だけで動かした
(決めたんだ・・・あの時、誓ったんだ・・・!もう、誰も死なせはしないって・・・!)
一回ごとに重くなる体を動かし、ジニーの下に辿り着く
純白の服は赤で染まり、その顔は青白くなっていた
(急所は何とか外れてる・・・だけど、出血が多すぎる・・・!)
腕を持ち上げるとジニーの傷口に手を置いた
ラグオル地表であれば、まだメディカルセンターに強制転送されて助かる可能性があった
そうでない以上強制転送されず、助かる可能性は皆無に等しかった
(これが最後になりそうだな・・・。)
シンは自分の体力の限界を感じ、突然笑みを零した
(もうユーダを追うこともできないけど・・・生きていれば、いつかハンターズになれる。そうすれば、ジニーはお姉さんに会うことができるんだよ・・・。)
砂時計にこびり付いた最後の一粒程度の力を、シンは右手に託した
(約束護れなくて本当にごめん。僕の分まで、いいハンターズになってくれ・・・!)
右手が光り輝くと、シンはそのテクニックを唱えた
「レスタ・・・!」
暖かい光が二人を包み込み、傷を癒していった
だが、同時に傷口から大量の血が噴き出し、シンはそのまま気を失った
動かぬ二人を、光は優しく抱き続けた

 『目覚めたか?』
男性型アンドロイド―――試験官の言葉に、シンは何とか首だけ動かした
目だけを動かすと、そこがメディカルセンターであることを瞬時に理解した
『質問もあるだろうが、まず先に再試験結果を発表する。―――おめでとう。合格だ。』
試験官の意外な一言にシンは耳を疑った
『フォトン弾がユーダのアイテムボックスに存在したデータを撃ち抜き、データは破壊。そしてユーダに記録されていたデータも、肩の切り傷に電撃を打たれたことでショート。これも消滅。―――よって、結果的に任務は遂行された。』
「ジニーは・・・?」
ようやく出た言葉を無視するように試験官は続ける
『これにより再試験を合格みなし、君をハンターズと認定する。手続きも多く、期日も迫っているため療養に励み、一刻も早い復帰を―――。』
「そんなのどうでもいい!ジニーはどうなったんですか!?」
病室を静寂が包んだ
『―――聞きたいか?』
シンは無言で頷いた
 「あっ!目が覚めてる〜!」
明るい声に目を向けると、ジニーがシンに駆け寄った
『依頼主が早く駆けつけたこと。他に急患がいなかったこと。―――そして何より、君のレスタによって彼女は一命を取り留めた。』
呆然とするシンに、ジニーは照れながら笑った
「あの時、初めて【ジニー】って叫んでくれたでしょ?その声が聞こえたら、何か死んじゃダメだな〜って思えたの。シンのおかげだよ?」
そしてシンの手を握り、じっと目を見つめた
「ありがとう。」
「あわわわわわわ・・・!」
シンの顔が一気に赤くなり、口から泡を吹き出し始めた
「え?ええ!?どうしたの、シン!?」
ジニーがその手を強く握ると同時に、シンは再び気絶した
「シン!?ねえ、シンってば〜!」
メディカルセンターにジニーの声が響く
それはまだ、二人がハンターズになる前の話―――

 僕はこの思い出を糧に生きる
今日も・・・そして明日も
君の傍で―――


ハンターズを目指す理由、そのきっかけは復讐のためだったのかもしれませんが、こうして大切なものを見つけ、それを守っていくことへ変わったことに気づいたシンは、きっと強さと優しさを兼ね備えたすばらしいハンターズへと成長することでしょう。

ただ……これで女性恐怖症さえ治れば、ですね(笑)

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