食料統制という栄養管理が緩やかになった近日、ある程度は楽に食事を選べる様になった。
甘いものもね。
ハンターズの中で、密かに人気だったアイテムがある。
ちょっぴり甘いモノメイト。
安価で購入しやすく、なおかつ公認の甘味料より美味しいので、少量が一般市場にも流出したほどだった。
私も何度かお世話になったけど…。
…。
ま・まあ、それはいいとして。
今は普通に美味しいケーキが購入できるようになって、ちらほらとふくよかな人を見かけるようになった。
それは平和になったということだと思う。
ラグオルに移住する時期は未定のままだけど、パイオニア2船内の生活が充実してきて、それで満足しているいる人も出てきている。
確かに…。
「お待たせしました」
私の目の前に紅芋のモンブランが運ばれてきた。
この状況を他人が見て、なんと言うだろう。
美味しいケーキが食べられるという、小さな幸せが嬉しい小市民の私。
ケーキ一つで平和を感じる私。
そんな私が移住計画をとやかく言うのは身分不相応と言うことなのかな…。
「ボケボケしおって…」
ヒースさんにもメイアと同じ事を言われる。
「…そう見えますか?」
「うむ。仕事もないのに事務所などに来ておるからな」
「あうっ…」
ヒースさんは本業でも副業でも先輩だ。
化粧っ気のない整った顔立ちと、隙のないプロポーションは同姓である私でも見惚れてしまう。
本業と副業の収入が逆転している私とは大違いだ。
ヒースさんがハンターズに登録しているのは、簡単に言えば運動不足解消のため、つまりはスポーツジム代わりと言うこと。
一流の人は考えることがどこか違う。
「暇なのだろう?マッサージをしてくれ」
「あ、はい」
相変わらず強引なところも私とは違う。
しなやかな、と言って差し支えないヒースさんの肢体に手を当て、筋肉を揉み解す。
一流のモデルさんを触れるなんて、男性ならば喜ぶんだろうなぁ…。
「わしにはその気はないぞ」
「えっ…。な、何でも無いですよ…」
ヒースさん、変に鋭いところがある。
なんだか見透かされたようでちょっとどきどきしてしまった。
十分位経過してからかな…。
単調な肉体労働にやっと開放されたのは。
「ご苦労。報酬は冷蔵庫の中じゃ」
ヒースさんが示してくれたところには、ナウラ印のケーキが入っていた。
「メイアの土産にするといい。持っていけ」
「ありがとうございます。妹、喜びます」
「ふふ…、今度遊びに来るように言っておいてくれ。わしもたまには会いたいのでな」
そう言って彼女はニヤリとしてみせた。
ああ、かなわないなぁ…。
仕草の一つ一つが絵になっている。
私なんかは遠く及ばないや…。
ヒースさんは永遠の憧れの先輩。
良い意味で大人になりたいな…、ヒースさんみたいに。
だらだらとした一日を過ごし、いつもの時間が過ぎていく。
バスルームでシャワーを浴びながら、またボケボケとしてしまう。
メイア、ナウラ印のケーキ喜んでたな…。
まだまだ子供なんだから…。
明日はギルドのお仕事。
セントラルドーム付近の残敵掃討作戦に参加予定。
私の仲間は皆、頼りがいのある人たち。
心配は無い。
「おねぇちゃんはやくーっ。ケーキ切るよぉー」
リビングから声が聞こえる。
「先に食べても構わないわよ」
「やだー、一緒に食べるのー」
メイアは待っている。
…私を。
そうね、早く出てあげなきゃ。
…こうして今日も一日が過ぎていく。
平和な時を刻みながら。
終わり
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