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いつも楽しくPSOをプレイさせて頂いてます。PSOではA-Kというレイマーとして日々ラグオルを駆け回らせて頂いてます。その楽しさを短編小説の形に起こしてみました。 |
視界の端にいたヒルデベアが、跳んだ。ゆうゆうたるその跳躍は、わたしに反応する隙を与えなかった。そのわたしの隙に、ヒルデベアは拳を振り上げた。いまからでは、かわせない。わたしは目をつぶって決定的なその時が来るのを、指先一つ動けずにただ待っていた。
「ぐぉう!」
――その叫びに目を開けたわたしは、目の前の状況を一瞬理解できなかった。どうやらヒルデベアは背後から攻撃を受け、それによってわたしへの攻撃を中断したようだ。現状を認識したならば、やることは一つ。敵が次の行動に移る前に、倒す。
「ラバータ!」
ケインが振り上げられた。氷系の上級テクニックをわたしの周囲に放たれ、目前のヒルデベアを包む。テクニックのレベルはそれほど高くはない。しかし、付属効果として敵を凍結させることができる。何より、まずは相手に行動させないことが大事だ。なぜならば、わたしは一人ではない。仲間がいるのだから。
巨大な氷塊となったヒルデベアに、ライフルの三連射が叩きこまれる。それで氷が砕かれると同時にヒルデベアは、その巨体をゆっくりと地に沈ませていった。
「わりぃ、V。そっちに逃がしちまった」
ライフルを肩に担いだ赤髪のレイマーが、向こうから近づいてきた。
「問題ない、アーク。倒したのだからよしとしよう」
そういえば、自己紹介が遅れたようだ。わたしはヴァーミリオン。ハンターズに所属しているフォニュエール。親しいものは『V(ヴィー)』と呼ぶ。
アークはわたしの相棒であり、こうして二人でラグオルを探索している。今日は森エリアの探索を進めていた。そこでセントラルドーム廃墟付近にてヒルデベアと遭遇。アークが前衛として接近するも、ヒルデベア種得意のハイジャンプで後衛としてアークをサポートしようとしていたわたしが標的とされた、というのがさっきまでのことだ。
「――どうやらさっきので打ち止めみたいだな」
そう言ってアークはレーダーマップから目を離す。さっきとは少し離れた場所で、わたしたちは小休止していた。彼の言葉を信じ、全身の力が抜けていくのを感じたわたしは、その場で草の上に寝転がった。
「おい、V…」
とがめるような口調でアークが何か言おうとしたが、その機先を制してわたしは彼に言った。
「敵はいないのだろう? TPを回復させたいから、少し休ませてくれ」
ニューマン種の特殊能力として、休止しているとTPが回復できる、というのがある。だが、別にそれはおとなしくしていればいいのであって、今のわたしのように寝転がることは必要ではない。――だが、TPはともかく、むしろ疲労の問題でわたしはこうしたかった。それを素直に言うのはなんとなく嫌だった。
「わかったよ。ある程度、そうだ、リューカーが使えられるようになるくらい回復したら今日は戻ろう」
だが、そうしたわたしの心は読まれていたらしい。アークは仰向けに寝ているわたしにそう言って、自身は適当な場所に腰掛けた。
仲間というのはこういうものなのだろうか。言わなくとも伝わると考えるのは傲慢だが、こうやって通じる何かがある、というのは考えすぎだろうか。
やることもなく、そうしてなんとなく空を見る。密林と地形に邪魔されず、空を望めた。運がいいのか、薄雲はかかっているが、今日は雨も降っていない。時は夕暮れ。さっきまでどこまでも赤く染まっていた空は、その一部を夜の黒に明け渡し始めていた。その赤いベールの向こうから、星の光が透けて見えている。
「夜が来る前に帰ろうか」
わたしは寝転がったまま、アークの方を向いてそう言った。アークもやはり空を見ていた。どこか、ぼんやりとした表情で、そしてぼんやりとした声で彼は、「ああ」とだけ言った。
生返事だったが、聞こえてはいるだろう。わたしはかまわず、また空を眺めていた。少しずつ表情を変えていくそこは、見ていて飽きなかった。こうして息を抜くことは、これまでなかった。そしてこれからもあるのかどうかわからない。ラグオルの混乱はいまだ続いているのだから。――だから、なるべく、この情景を、この時間を、心に焼き付けようと、そう思った。
「むむ…?」
そこでふと、気付いた。届きそうなほど近くに、それほど輝きは強くないが、集まって瞬いている星たちがあった。あれはもしかして――。
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