
どっかの超一流ヒットマンじゃないが、俺は一度受けた依頼は、必ずやりとげるタイプだ。そして、同じ奴からの依頼は、余程の理由がない限りは、二度は受けない。
だがまぁ、今回は特別だ。
貧すれば窮する、という言葉がしっくりきていた或る日、今、俺の目の前にいるこいつ…ホプキンスから、メールが届いた。
『以前君達に取り返してもらったヒートソードが、ちょっとしたミスから、また奪われてしまった! 非常に心苦しいのだけど、また取り戻しては貰えないだろうか』
普段ならふざけるなこのボンボンが、といった風情で、以後のメールを着信拒否していただろうが、その時ばかりは渡りに舟とばかり、メールを返信した。
それは大変だな。多忙を極める俺ではあるが、知らない仲でも無いし、特別に請け負ってさしあげよう。ただし報酬は現金で。あと多少イロを付けろ。あと他の奴は呼ぶな。あとピチピチのズボンははいてくるな。期日の指定はそちらに任せる。返信待つ』
そして約束の期日である今日、こうしてハンターズギルドにて、このドラ息子を前にしているというわけだ。
「ありがとう、エグゼ。同じ過ちを二度繰り返すなんて、全くボクらしくないが、まぁあの時はちょっと特別でね…何故なら」
ほっとけばいつまでも言い訳をしそうなので、とりあえず話の腰を折る。
「場所はどこだ?」
「あ、ああ、場所ね。場所はラグオルの森林エリアで…」
「…」
「探索をしてたのは水曜日かな…セントラルドーム付近まで行ったんだけど、そこでマントを羽織って、変な仮面をした奴に襲われて…」
「ふむ」
「夢中で応戦したんだけど、善戦むなしくやられてしまって…気づいたら、持っていたヒートソードがないんだ。パパから貰った大事な…」
「それはいいから。(まがりなりにも金持ちの息子だが…身代金目的で誘拐しようとした訳じゃあ、ないらしいな。だとすれば、目的はヒートソードか? いや、まさか…)」
俺はタバコに火を点け、思索を巡らせた。
「頼むよ、ヒートソードを取り戻してくれよぅ」
「ま、やるとは言ったからな。そこらで茶でも飲んで待ってやがれ」
「頼むよ!」
嬉しそうにギルドを後にするホプキンスを横目で見ながら、俺はチェックルームへと向かう。ピチピチズボンははいていないが、非常にアレな感じの半ズボンをはいているのが、無性に腹立だしい。
まぁ、いいか…。
日は大分傾いていたが、夜になるまではまだ時間がある。
さっさとヒートソードを見つけ、報酬でちょっと豪華な晩飯といこう。
「さァて…」
飛びかかってきたグルグスを両断し、返す刃でもう一匹の首を撥ねる。
後ろから近づいてきていたバートルの口に刃をねじ込んで、捻りながら一気に押し下げる。更に低い姿勢から次のバートルの両足を切断し、倒れたところを突き刺してとどめ。返り血を避け、辺りを確認。全滅させた様だ。
「出だし快調!」
エリア2に続く転送装置付近まで、順調にきた。
ラストサバイバーは血と脂で濡れているが、俺自身にはさしたるダメージも無い。
まぁ、当然だ。俺は時計を見て、まだ大分余裕があることを確認すると、側にあった岩に腰掛け、タバコをくわえる。
身体を動かした後の一服に、至福を感じるのは、俺だけではないはずだ。まぁ、カッコ悪いのは、貰ったタバコで、いつものではないという事なのであるが。
「ふぃー…行くか」
立ちあがろうとしたその時である。ふと、視線の様なものを感じ、俺は鬱蒼と茂る木立に目をやった。
だが、誰もいない。気配を殺して隠れているなら別だが、そうでもない様だ。
しかし、用心は必要だ。
石を拾い、美しい投球フォームで投げる。180キロは出ただろう。いや、もっとかもしれない。パイオニア2が着陸して平和な生活が始まれば、各球団から引く手数多、といった所か。
「…スライダー」
吸殻を携帯灰皿に捨て、呟く。どうやら気のせいらしい。または、直撃して、ちょっと目も当てられない状況になっている、ということも考えられる。
「…ええい」
気になった。
だが行ってみれば、何のことはなく、気絶したラッピーがいるだけであった。
「ち…。無駄な手間ってやつだ」 |
|