PSOみんなの広場





「レリエルさん、調子はどうですか?」

端末から聞こえてきた、呑気な声。ナビゲーターのエリだ。
調子って…… 最低。
思い切り低い声で呟いた。言葉が見つからないから。

「ええー? マックスさんがいらっしゃったのに?」

どうも友達だと思っているらしい。不快指数は極限まで達していた。
あいつがいるから最低なの。静かに端末に話し掛けた。

「おかしいですねえ。マックスさん、あなたと探査するのを楽しみにしてるのに」

……えっ?

また眉が寄って来ている。構う暇もなし。

「マックスさん、いつも私に話してくれるんですよ。”レリエルは腕が上達してきた”とか、”でもあいつは頑張りすぎるから心配だ”とか…… あっ、言っちゃいけなかったんだった。内緒にしといてくださいね?」

エリの言葉が、冷水となって頭に浴びせかける。
お前下手なんだよ、やってらんねーな。憎まれ口を叩く彼の顔が、思い浮かんだ。
訳わからない。本人にはひどいことを言うくせに、他人には心配面してるやつの神経が。
腹が立ってきた。屈折してるにも程がある。
無言で回線を切る。ごめんエリ、もう話しをする気力ない。
セイバーの柄を握って、次のエリアへ入る。
大きな巣のようなものが、あちらこちらにある。薄い紫色の粉を発している。
真ん中まで来た時、背後で声が。

「バカ!戻れレリエル!一人じゃ無理だ!」

なによ、どこまで愚弄すれば気が済むのよ。そう怒鳴ろうと思って、後ろを振り返って絶句した。
今までとは比べ物にならない数のギーと呼ばれる虫の原生生物。
視線を戻すと、ギーの大群の中で、ひときわ大きいものがあった。
こいつらの親玉なんだろう。セイバーを握る手が強くなる。
とはいえ接近戦用の武器では、飛行しているものを攻撃するのは限度がある。
降りてきたところを叩く。しかも空中から飛ばしてくる針もよけないといけない。
次第にこちらが不利になってきているのを感じていた。そういえばマックスは?
気配を感じない。
きっと、エリアの外からこの光景を見て笑ってるんだろう。
助けになんか来てくれない。だったら、一人でやるのみ。
構えては踏み込み、時にはセイバーで相手の攻撃をガードする。
後方の攻撃ばかり気にして、親玉の動きを見切れていなかった。

「危ないっ!」

何かにつかまれたと思うと、身体が地面にスライディングした。同時に男の悲鳴。マックス?
反射的に閉じていた目を少しずつ開いて、唖然とした。あたしを抱きかかえて、親玉の攻撃を
よけてくれたのだ。背中の装甲はただれて、皮膚が見えている。そこからは血も滲んでいる。

「マックス、マックス!」

しゃがみこんで呼びかける。そうだ、レスタ!
立ち上がって気持ちを集中させる。テクニックを唱えて、倒れている彼の背中に手を翳す。
淡い緑の光が降り注いだ。

「待ってて。絶対に死なせないから!」

セイバーを握る。
怖い。逃げ出したい。身体が動かない。
でも。マックスの命は、あたしに任されてるんだ。
震えてる足に喝を入れ、全身が緊張ではりつめていく。
セイバーを構えなおし、大きく身体をよじらせると敵の中に突っ込んで行った。


戦闘が終わるのに、長い時間がかかったような気がする。
あたし達の周囲は、原生生物の死骸が散乱していた。

――いたたたたたた。

モノメイトをかじりつつ、さんざん痛んだ体をさする。
青あざに赤く腫れている箇所もある。シティに戻ったら、メディカルセンターに行かないとなー。
そうだ、マックス!
声をかけながら軽く揺らす。反応はない。
まさか、まさか死んじゃった? あたしのせいで。
うなだれていると、突如視界が覆われた。目前に、彼の胸板のアーマー。
腰に回された腕の力は、暖かさすら感じる。

「お前に付き合ってると疲れるぜ」

吐き捨てられた台詞に、とげとげしさは込められていなかった。

「すまんな…… さっきギーに囲まれた時、すぐに助けてやれなかった。怖かったんだ」

「怖い? 意外。あなたでも怖いものとかあるんだ?」

当たり前だぜ、と笑う彼。

「大切なものを受け止めるために、戦うことがこんなに怖いとは思わなかった。厄介だな」

恐ろしいぐらい、彼の言葉を全身で吸収している。
ということは、あたしをかばってくれたのは……。

「ま、今回のお前の動きには正直見直したが、まだまだだな」

むっ。

腕を振り払い、身体を離して拳を腰に当てる。眉を吊り上げて叫んだ。

「別にあなたに評価されるために、戦ってるんじゃないんですからね!」

彼は立ち上がり例の嫌味な笑いを浮かべながら近づいて、いつものように頭に手を置いて髪をぐしゃぐしゃにかき回す。

「ま、それだけ威勢が良いんだからラボの人間もあながちミスではなかったろうよ」

ウィンクをして目を細めた。その視線は穏やかだった。
聞こえないつもりで言ったであろう台詞。風が味方をしてくれた。
初めて、誰かを守るために戦った。
両手を空に突き上げる。手を広げて。指の隙間から差し込む光に、目を細める。
言葉ではない叫びが、光の向こうへ溶け込んでいく。

「なんだそりゃ。ヒルデベアの遠吠えか?」

マックスが大仰に手を広げている。あきれている時の彼の癖。
手を降ろして、舌を出してべーっと声を出す。

「ヒルデベアって失礼な。……おまじないよ」

熱い想いがひとつ。
何かは分からないけど、生まれたような気がする。

仲間を守る為に戦う事で、またひとつ成長したレリエル。
その充実感を胸に、今後も立派なハンターの道を歩んでゆく事でしょう!

『ロビー便り』では、みなさんからの投稿小説を募集しています。素敵な作品は、こちらのコーナーでご紹介致します。詳しくは『投稿する』ページをご覧下さい。 また掲載作品への感想もお待ちしています。同コーナーまで どしどしお
便りください!おまちしてます。