PSOみんなの広場





…三日後。

「お姉ちゃん、今日で三日目だねぇ」

「そうだな。…心配か?」

時には殴り合いや銃撃戦をしたりする姉妹だが、基本的には非常に仲が善く、互いの事をいつも気にしている。
逸華の心配ももっともだろう。

「まぁ、あの人の事だから…泥にまみれても帰ってくるでしょ」

俺が笑いながら突っ込もうとしたその時、玄関が開く音がした。どうやらお帰りらしい。噂をすれば何とやら、だ。

「ただいまー」

二人して玄関に出て、虚華を迎える。
しばらく、無言の時間が続く。

「…どっから突っ込んでいいものか?」

「ハ?」

慎重を期して着ていった、フォマールのスタンダードウェア(黒)は所々破れ、泥で汚れているし、顔には刀傷みたいな傷も見える。更には手の甲や帽子などには、明らかに巨大な歯型がくっきりと残っていた。

「お、お姉ちゃん…どこ…行ってきたの?」

「…テカロモコソ…」

ぶつぶつと呟く様に答え、靴を脱いで家に上がりこむ。その靴はよく見ると左右で異なったものであるし、足にいつも着けているストッキングも電線しまっくている。俺と逸華はその異常な風体の虚華を、一歩退いた位置から見ている事しかできないでいた。
ソファに座った虚華は、おもむろに服を脱ぎ始めた。男としては嬉しいシチュエーションであるが…止めないワケにもいくまい。

「お、おい、部屋で着替えろよ」

「ここは私の家デス」

白地に「テカロモコソ」と大きくプリントされたTシャツ。

「テカ、テカロ…?」

そのTシャツを脱ごうとしていた虚華の動きが止まり、ガクガクと震え出す。もう、まったく理解の範疇を超えてしまっている。

「だ、大丈夫か?」

「…か、カマドウマが…カマドウマが襲ってくる…」

カマドウマ? なんだ?

「…大量のカマドウマが、カマドウマ王国のカマドウマ王に率いられて…人間世界を脅かすっていうか」

…どうコメントしたものか。俺ら以外の人間に、まさか同じ事を言っていたりしてないかと、不安になる。

「エ、エグゼぇ」

「そ、それで大先生、取材は完璧ですか?」

怯え気味の逸華をなだめつつ、俺は本題を切り出した。まさかとは思うが、はかどらなかった取材の言い訳をしている様でも、あるからだ。

「はっ…あ、ああ、まぁね。はいこれお土産」

「…お守り?」

安産祈願、と書いてある。逸華はともかく、俺がこんなものを貰っても仕方があるまい。それ以前に、これは何処のお土産だ?

「取材はですねぇ…まぁ、いい感じでしたよ。今晩から一気呵成に書き上げるんで、どうぞご期待下さい」

そう言い残すと、虚華はバスルームへと消えた。

「…何かヘンだよねぇ」

「あ、ああ。Tシャツとか着てたしな。ていうか、何処に行ってたのかが、一番気になるんだが…」

まったくもって、謎の深い女である。


数日後。

「出来ました…読んで下さい」

若干やつれた表情を見せつつも、虚華は原稿用紙の束を俺に手渡した。何故データ形式にしないのかと聞こうとしたがやめ、とにかく読み始めることにする。
 
そして数時間後…。

「…これ、いいんじゃないか? 下手すりゃあ入賞どころか優勝ですよ! 夢の印税生活でウッハウハですよ!」

「そうでしょうとも。自信があります。取材のおかげです」
普段あまり本を読まない俺にもわかりやすく、頭の中に映像が浮かんでくる様な、素晴らしい出来映えのシナリオだった。

「ううむ。お前にこんな才能があったとはな…」

「まぁ、ペンは剣より強し、と言いますからね。実際」

「そうかもなぁ…ああ、そうだ、聞いときたいんだが、お前、何処に取材に行ったんだよ?」

今なら聞けるだろう。俺はタバコに火を点け、返事を待つ。

「あぁ…島です。ガル・ダ・バル島」

「…」 

…。

「なにぃ!?」

「わっ」

今、さらりと、とんでもないことを言った様な。

「ガル・タ・バル・アイランドゥー?」

「言い方変えても同じだッ! お、お前、ダークファルスまでがどうとか言ってたよな? それにあそこはまだ調査中で…」

いずれ俺達ハンターズに招集がかかるであろう、危険な場所…のはず…だが。

「うん。でもまぁ、降りるくらい、大した事はありませんよ。何かヘンに大きな鳥とか、ヘンなロボとか、あと海底のヘンな施設とか、そこで出てきたヘンにデカイデルセイバーみたいな奴とか、色々ありましたけども、全部まとめてちぎって投げてきましたよハハハ」

「…」

「ハハハ」

「ハハハじゃねぇ! ハハハじゃねぇよ高天虚華! お前、そんな勝手な事、勝手な…ああ、もう! 何て言やぁいいんだ!」

ワケがわからねぇ…。島で何やらかしてきたんだ…。


「じゃあ、郵送しに行きますかねー」

分厚い封筒を手に、家から出てきた虚華を迎える俺。リニア・カーに乗りこみ、郵便局を目指す。
備え付けのテレビを付けると、何やら緊急ニュースらしきものが、テロップやスーパーにまみれて映し出されていた。

「なんだ?」

「さぁ…総督がプレッツェルでもノドに詰まらせたんじゃないの?」

「うわはははは…そりゃアレだなー。ん、なんだ? ラグオル地表上の安全を最終確認…?」


ニュースの内容に、パイオニア2の人間全てが歓喜した。
ガル・タ・バル島で測定されていた危険な兆候は全て消滅し、パイオニア2の着床を妨げる要素は、完全に排除されたというのだ。
そして、急遽決定したパイオニア2の降下、着床。
つまり…新たなる大地に降り立つ権利を、ようやく手に入れたという事に他ならない訳だ。


「お前確か…島で…色々倒したとか言ってたよな?」

「そりゃあもう、色々と。大きなものから小さなものまで、倒す力はタカマー…」

「わかった、わかった。とにかく…これから忙しくなるぞ」

「印税もガッポガッポですにゃー」

それはないだろうな…。


後日…。
パイオニア2は、ラグオルの大地に着床した。
 
それに関しては何も言うまい。
虚華が心血を注いで書き上げ、郵送した作品は…無効となった。
当然だろう。倦怠ムードなどどこ吹く風で、払拭する必要も無くなった訳である。それに準じて、募集されていたシナリオやら映像やらのコンテストはふいになり、虚華の原稿もまた、返送されてきた。

「…ねぇ逸華さん、この数日間のワタシの頑張りは、誰によって補完されるのでしょうかね」

「自業自得じゃないの…?」

「馬鹿な…あんなデカいデルセイバーみたいな奴よりも、地位と金と名声と酒と印税生活の方が何万倍もいいですよ?」

「だから本音はやめたほうが…」

「ぐぅ…はっ。そうだ…この一連の騒ぎと、私のアグレッシボゥな活躍をまとめたエッセイ集を出すってのはドウカシラ!?」

「誰が読むんだか…それより遅咲きのグラビアアイドルとしてデビューしたら? 巨乳だしお姉ちゃんは…」

「そ、それもアリかもしれないわね…こうなると、私のマルチな魅力をワールドワイドに発揮して、老若男女全ての層にアッピールして、その見かえりに銭とメセタと地位と名声と…」

「(ダメだこりゃ…)」

高天虚華の明日はどっちだ。
 
終。


後日談

移住作業も落ち着いたある日、海岸でグラビア撮影を行っていた雑誌クルーの前に、アプサラス仮面と名乗るナイスバディの女怪人が現れたが、続けて現れた二人のマスクマン(男1、女1)の情け容赦無い攻撃により排除されたという…。

天然系のキャラクターというのは、何をしでかすか分からないところが魅力的なものですが、今回のは度が過ぎています。
自分でも気がつかない間に、"あの"ガル・ダ・バル島に上陸していたどころか、ラグオルの平和を取り戻してしまった虚華。
PSOノベル最強キャラは、間違いなく彼女で決定でしょう…!

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