PSOみんなの広場

 




 半日かけて、ベイツ達はセントラルドーム付近までやってきていた。

 途中、何度も何度も原住生物たちの襲撃を受けたが、ヴォイドのおかげで無事きりぬけていた。

「いよいよ、だな・・・」

 ベイツ達の目の前には、セントラルドーム地下に通じる大穴が
ぽっかりと口を開けていた。セントラルドーム大爆発のときに開いたとされる大穴だった。

 そして、この奥には・・・「ドラゴン」がいる。

「ふむ。その前にききたいことがある。ベイツ」

 ふいにヴォイドが口を開いた。

「なんだ?お前がそんな質問をするとは、珍しい」

「お前がそこまでドラゴンに執着する理由がわからない」

 …まさか、こいつに聞かれるとはな…。

「分かった。話してやろう。長くなるぞ」

 俺は昔はけっこう無茶もやって危ない橋も渡ったが、こう見えて子供もいた。…まあ女房には逃げられたが。

 俺の息子は俺に似ず正義感が強く、いつも「軍に入って市民を守る」などと言っていた。

 息子の願いは叶い、息子は軍に無事入隊した。

 そして1年たたないうちに、この星についた。

 息子は先遣隊としてラグオルに派遣されていった。

 そして、半月後。

 俺のもとに、息子が所属する軍の部隊が、

「ドラゴン」と呼ばれる原住生物に全滅させられたという一報が届いた…。


「復讐か」

 聞き終わったあと、ヴォイドはそう付け加えた。

 ベイツは笑っていた。

「そうなるな。息子の仇討ちってとこだ。俺が息子にしてやれる最初で最後の親父らしい行動ってとこだな」

「動機としては悪くない。だが、まだなにかひっかかる」

 けっこう鋭い奴だな。

「まあいいじゃないか。早いとこ行こう。空模様が怪しくなってきた」

 そう言ってベイツ穴に足を踏み入れた。

 空は怪しく曇り、今にも雨が降り出しそうだった。

  穴の奥に進むと、やがて強烈な硫黄臭が鼻をつくようになってきた。

「そろそろやっこさんの寝床だな…」

 硫黄臭とともに、気温も上がってきている。

 穴の傾斜がゆるくなり、ほぼ平地とかわらない状態になった時、急に視界が開けた。

 そこは地底のドームだった。

 裂け目から見える溶岩の光に照らされ、ドーム全体が赤く光を帯びている。

 そして、その奥に。 巨大な身体を横たえ、「ドラゴン」がいた。

「いた!!」

 ベイツが言うと同時に、ドラゴンが大きく吠えた。

「来るぞ」

 ヴォイドが言った瞬間立ち上がり、一直線にこちらに向かってくるドラゴン。 

 ベイツはハンドガンで巨大なドラゴンを狙い撃つが、ドラゴンは全くひるまない。

「く、やはりこんな豆鉄砲ではだめか!!」

 言ってベイツはハンドガンを投げ捨て、セイバーを抜く。

「オレが奴をひきつける。ベイツは後ろから切りつけろ」

 ヴォイドがそう言って駆け出す。

ドラゴンの前を注意を引き付けるようにふらふら走ると、反対側に向けてダッシュをかけた。

 見事にドラゴンはベイツに背を向けた。

「さすがだな」

 ベイツはそう言うと、無防備なドラゴンの足に走りより、何度も切りつけた。

グォォォォォン!

 何度も切りつけると、ドラゴンは苦悶の声を上げ、地面に這いつくばった。

「頭が弱点だ、頭を狙えベイツ」

 頭に切りつけ、確かな手応えを得たヴォイドが言った。

「おう!!」

 ドラゴンの頭に走り寄り、切りつけるベイツ。

 しかし、次の瞬間。

グゥォォォオオオオオオオ!!!!

 ドラゴンは突如カッと目を見開き、吠えた。

 その声を間近で聞き、ベイツの動きが止まる。

「避けろ、ベイツ!」

 ヴォイドがとびすさりながらそう言ったが、ベイツは動けなかた。

 ドラゴンはその巨大な顎で、ベイツに噛みついた。

「ぐわぁっ」

 下半身がドラゴンの口に埋まっている。脱出は不可能だった。

 ベイツの口からおびただしい量の血が飛び出した。

「ベイツ!」

 ヴォイドが呼ぶ声が聞こえる。

 …けっ、俺もここが年貢の納め時ってわけか。

 ベイツは手にしたセイバーをふり上げる。

「ヴォイド、俺にかまわずやっちまえ!!!」

 そのまま、セイバーのフォトンの刃を、ドラゴンの目に突き立てた。

ギュゥアアアアアアアアアア!!!!

 苦悶の声とともに、ドラゴンはベイツを吐き出した。

「今だ、やれ!!」

 あふれ出る血をぬぐおうともせず、ベイツは叫んだ。

 ヴォイドは手にしたソードを振りかぶり、ドラゴンの頭部めがけて投げつけた。

 ソードはまるで吸い込まれるようにドラゴンの眉間に突き刺さった。

ゴオオオオオオオオオオ!!!

 ドラゴンは、断末魔の声をあげると、ゆっくりと地面に倒れていった。

 ヴォイドがベイツのもとに駆けつけると、ベイツはすでに虫の息だった。

「ムーンアトマイザーは?」

 ヴォイドが尋ねる。

「…もってきてない」

 当然、ヴォイドはそんなものはもってきていない。

「メイトはあるのか」

「原住生物とやったときに…全部…」

 しかし、この出血量ではそれすらも無意味だろう。

「スーツの転送は」

 いざという時のため、ハンターズが着るスーツには、
パイオニア2に装着者を緊急転送するための装置がつけられている。

「この有様だ…無駄だよ」

 ドラゴンの牙によって、ベイツのスーツはズタズタに切り裂かれていた。

転送は不可能だ。

「オレは、どうすればいい」

 ヴォイドがやはり淡々と尋ねる。

「墓を…作ってくれ。俺と…息子の…」

 言って、ベイツは目を閉じた。

 まだ、生きてはいた。だが、時間の問題だ。

「分かった」

 ヴォイドはそれだけ言うと、ドラゴンの死体に歩み寄り、眉間に突き刺さったソードを引き抜いた。
ドラゴンの血が勢いよく吹き出て、ヴォイドの半身を赤く染めた。

 ヴォイドはそのソードをベイツの横の地面に突き立てると、その腹の部分に、セイバーの刃で何かを彫りはじめた。

 そこにはこう書いてあった。

「我が戦友 ここに眠る」

 そして、ヴォイドは立ち去った。

 その背に向けて、小さな、小さな声が言った。

「ありがとう」


 穴の外に出ると、外は降りしきる雨だった。

 その雨はヴォイドの外装を濡らし、滴となって体を伝う。

 その姿は、まるで泣いているように見えた。

 奴は、覚えていてくれた。さようなら、戦友・・・。

違法アンドロイド“void”の設定には、とても惹かれるところがあります。
ただ冷酷に敵を倒す事しかできないようにみえたヴォイドが、最後にベイツとの別れでみせる人間的な一面にとても感動しました!


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