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違法アンドロイド「Void」と、息子を奪われた復讐を目論む男の物語です。 |
もうずっと奴に会ってない。
奴は俺のことを覚えているだろうか?いや、覚えているはずだ。
何故なら、奴は・・・。
パイオニア2にもダウンタウンはある。
総督府のある最上層は、パイオニア2建造から20年以上経った今でも美しく整備されているが、都市である以上、汚物はたまり続ける。
総督府のある最上層よりずっと下、ネオンの光がようやく届く
暗く湿った場所に、その店はあった。
「ジャンク・イージー」
非合法な武器や薬、そして人身までを扱う店である。
その店先に、その場所に不釣り合いなほど立派なエア・カーが停車して、一人の中年の男が降り立った。
「ようやく着いたか・・・」
男の瞳は何かなつかしいものを見るような目で、
その店の看板を眺めている。
その身にまとう服はこの場には不釣り合いに高級で、
その空間で男と車だけが異様に浮かび上がっていた。
男はゆっくりと歩を進めると、今時珍しい手動式のドアをくぐり、
店の中へと入っていった。
店の中には、機械油の匂いと果物が腐ったような匂い、
そして店主がくゆらすパイプの煙の匂いが充満していた。
「・・・悪いが今日は休業でね。他を当たってくれ」
カウンターの奥で店の奥を向いたまま、小太りの初老の店主はそう言った。
「じゃあ明日来る。明日がだめなら明後日だ。 ・・・合い言葉はこれでよかったか?イージー」
店主は驚いた。多少老けてはいたが、この声には聞き覚えがあった。
そして、ゆっくりと振り向く。
「ベイツ!!「荒稼ぎのベイツ」か!?」
「おおそうだ。元気そうで何よりだな「守銭奴」イージー」
2つ名を呼び合い、二人は抱き合う。
「元気そうでなによりだなじーさん」
「お前こそ。しばらく見ないうちに立派になっちまって・・・」
イージーと呼ばれた初老の店主は、まじまじと男を見つめる。 かつて、この男ベイツはパイオニア2でハンターズでありながら
盗賊家業をしていた。軍や総督府の物資を盗み出し、パイオニア下部のダウンタウンで売る、というのが彼の稼業だった。
そしてついた2つ名が・・・「荒稼ぎのベイツ」。
そして今は、ラグオルの調査のために、
正式なハンターズとして動いている。
「で、今日は何の用だい?パイオニア1の掘り出しもんでも
もってきてくれたのかい?」
「いや、違う。今日は「Void」を借りにきた」
「ほう・・・「Void」をか」
店主の目がすっと細くなる。
「Void」とは、製造No.のない非合法に製造されたアンドロイドの総称である。当然製造No.がないために、発見されしだい即座に破壊され、スクラップにされる。
だが、ほとんどの「Void」はそうならない。
なぜなら、彼らはずば抜けた戦闘能力を持つため、その機能を停
止させるには、直接の製造者でもないかぎり不可能に近いからだ。
この店にも、そういったアンドロイドが一人いた。
「あいつとは、二度と組まないんじゃなかったのか?」
イージーがいぶかしげに尋ねる。
「ああ。だが今回はちょいとわけありでな」
かつて、ベイツはこの店の「Void」と組んで軍の武器庫を襲ったことがある。その時、「Void」は、追っ手の軍人達を皆殺しにしてしまったのだ。「止めろ」とベイツが止めに入ろうとした時、「Void」は軍人全員を殺したあとだった。
ベイツはその時、「Void」がなぜ発見されれば即座に破壊されるのか、理解したのだった。
「奴の「強さ」がどうしてもいる。呼んでくれ」
「わかった。店の裏に呼ぼう。報酬はあとで口座にふりこんでおいてくれ」
店の裏は表よりもなお暗く、湿っていた。
ベイツがそこへ行くと、その壁にもたれかかり、立っている人影があった。漆黒のヒューキャストだった。
「ひさしぶりだな」
抑揚のない声で、「そいつ」は言った。
「・・・覚えていたか。久しぶりだな、ヴォイド」
「そいつ」の名は、ヴォイドといった。
「私が呼ばれるとは思わなかったな。お前は私を嫌っているのではなかったか」
淡々と「ヴォイド」は言う。
「嫌いと言った覚えはないが?」
「「もう2度とキサマの面は見たくない」とお前は言ったぞ」
「お前でも人の心がわかるんだな」
「わかっているわけではない。データから類推しているだけだ」
前も、こんな調子だった。
製造No.のあるアンドロイドなら、もう少し人間らしい対応もするが、彼らはその「人間らしさ」を排除してそのぶんを戦闘能力に回している。
「それで、今回はどういった仕事だ」
「それはだな・・・」
ラグオルに降り、原住生物の「ドラゴン」を、共に倒して欲しい。
これが、ベイツの言った「仕事」だった。
偽造キーを使い、転送装置からラグオルに降りた二人を待っていたのは、原住生物「ブーマ」による洗礼だった。
「ちぃ、数が多すぎる!!」
久しぶりに持つハンドガンの感触にとまどいながら、ベイツは必死に応戦する。
「下がってろ、ベイツ。オレがなんとかする」
言うが早いか、ヴォイドはブーマの大群の中に飛び込んでいった。
「おい、いくら何でも無茶だ!!」
しかし、結果的にブーマたちの注意はヴォイドの方に向き、ベイツへの攻撃はこなくなった。
「くっ・・・!!」
必死にハンドガンを撃ちまくるベイツ。
久しぶりに着たレンジャーのスーツが重く肩にのしかかり、
狙いを狂わせる。
そんなベイツをあざ笑うかのように、ブーマたちはヴォイドに群がってゆく。
しかし、次の瞬間。
緑色のフォトンの巨大な刃が、ブーマ達を一瞬で切り裂いた。
「ふむ。さすがに軍のやつらよりは手応えがあったな」
大量の返り血を浴び、ブーマ達の死体の向こうから、ヴォイドが姿を現した。
「・・・さすが、だな」
やはり奴を選んで正解だったな。
ベイツはそう思った。
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