
「探し物依頼か・・・まぁ駆け出しだしな」
俺はパイオニア2の住居エリアを探し回っていた。
パイオニア2に乗り込んでからしばらくして、俺はハンターライセンスをとった。
別にそれまでの生活に困っていたわけじゃない、
ただ、この世界で起きていること、知らないこと、そんなものが見られるかもしれない。
それは、未開の土地への冒険心、そんな淡い期待だけで俺はハンターになった。
そして、パイオニア2には同じような理由でハンターになる者たちが大勢いた。
しかし、閉鎖空間であるパイオニア2で冒険があるはずも無く、
今の俺の仕事は迷子のペット探しだった・・・
「まったく、これだけ探してもいないとはな・・・建物に入ったか?」
「く・・・」
裏路地を歩く俺の耳に微かだが男のうめき声が聞えた。
声の方向を探すと深い傷を負った男が半死半生の体で転がっていた。
「おい、だいじょうぶかっ」
「あまりこえをだすな・・・みつかる・・・」
あわてて駆け寄る俺に、男は方向違いな返答を返した。
いや、あの時はあれが一番正しかったのだろう。
「おい、しっかりしろ、今メディカルセンターへ」
「やめとけ・・・そこにいけば・・・あんたもしぬぞ」
「おい」
「やつらは馬鹿じゃない・・・」
俺はどうしたらよいのか分からなかった。
男は俺の付けているマグに気がついたようだった。
「あんた・・・ハンターだな」
「そうだ、だから今知り合いの回復できるやつを」
「まにあわんよ・・・」
男が笑う。笑いながらも血を吐き出す。たしかに、助けることはできないかもしれない。
「あんたに・・・ひとつ頼みたい」
「なんだ?」
「このマグを・・・受け取ってくれ」
そういって男はマグ=ヴァラーハを俺に渡した。
「この武器もやる・・・そいつが・・・あんたを導く・・・」
「おい・・・おいっ!」
男は二度と口を開かなかった。
俺は男が気になったが、これ以上ここにいることで、男の言っていた「やつら」見つかることの恐怖が大きくなった。
俺は、男をその場に残し、急いで大通りへと向かった。
・・・世間ではそんなことが起こったなんて嘘のように平穏だった。
男の事も結局、誰も知らなかった。
俺は男のことを調べようとしたが、ハンターリストにもそれらしい記述は無かった。
そして、男のいた場所にも・・・
俺が知ることができたのは、このマグと2本の剣の名前、性能だけだった。
そして、それ以上のことを知ることができないまま、パイオニア2はラグオルへ到着した。
「あの・・・どうしましたぁ?」
少し考え事をしていたせいで、返事を返さなかったのだろう。
エルノアが心配そうな声でのぞきこんでいた。
「いや・・・このマグは人からのもらい物でね、ちょっとこいつの事考えてた」
「そうなのですかぁ」
エルノアはそれ以上は尋ねずに再びマグ探しを開始した。
途中、エルノアはマグについての様々なことを教えてくれた。
マグにも心があり、お腹が空き、主人のために働く、
途中何度か「博士」という言葉が出てきた。
その人物がエルノアを作ったのだろう。
おそらく遊び心のある人物なのだろう。ありすぎるのも問題だと思うが・・・
「Hiroさんのマグもきっといい子ですよね」
エルノアがそんな事を言い出した。
「Hiroさんやさしそうだし」
「いや・・・それよりどうしてマグと話せるんだ?」
俺は話題をそらした、これ以上は照れくさい。
「・・・え?」
「・・・ごめんなさい・・・よくわからないです」
本当に分からないのだろう。すまなそうに言うエルノアに俺は軽く笑って答えた。
とりあえず、目的は果たせたのだし・・・
そんなとりとめの無い会話をしつつ、森の探索が続いた。
ラグオルの地表は日差しも良く、環境破壊の進んだ本星と比べるとまさに楽園のようだった。
原因不明の爆発、モンスターの出現、行方不明な人々・・・
それらが嘘であったかのように地表は穏やかだった。
「あっ いましたぁ!」
エルノアが声を上げた。見るとそこにはマグが一体。
結局、見つかったのはテレポーターのすぐそばだった。
「たぶん、前のマスターとお別れをしていたんですよ」
エルノアはそういった。たぶん、その通りなのだろう。
もう別れはすんだらしく、マグの方も気持ちの整理はついたらしい。
俺はエルノアからマグを受け取った。
「ね?大事にされたマグは、マスターのことが大好きなんですぅ」
「Hiroさんのマグも大事にしてあげてくださいね」
うれしそうに言うエルノアに俺は少し頷いた。
ハンターになった時に手に入れたマグ、
男から託されたマグ、
どちらのマグも大切なものだった。
そのためにも男を超え、本当のヴァラーハの相棒になりたい。
こいつがどう俺を導くというのか、それを見てみたい。
おそらくそれは「やつら」と関わることになるだろう、
だが、俺はその先までたどり着いてみせる。
俺はそう誓った。 |
「鋼の心」がベースですが、しろさん独自の設定が加わり
とても読み応えのあるノベルとして仕上がっています。
とくに、冒頭の戦闘描写はとてもテンポがよく、緊張感がびしびし伝きます。
結末を知っている話しでも、とても楽しく読み進めることができました。
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