ミニタンカーは次の観測所に停泊していた。もちろん船上は戦闘が終わったままである。動くもの、動けるものは誰もいなかった。
そこへトンネルの歩道をどたどたと走る足音が響いてきた。
「お! いたぞ!!」
一人が叫んだ。残りの三人も口々に言う。全員男の四人組だ。
「途中で乗り物なんざ使いやがって」
チームの中の一人が愚痴った。男たちは見た顔だった。ギルドでホタルにからんだ連中である。
「見ろよ! この船の上!!」
一人が船の上を見ながら叫んだ。
「こいつらこんな化け物を倒したのかよ!?」
男たちは次々と船上に乗り移り、あたりを物色した。横たわるワームの腹部をナイフで裂き、内臓をかき回した。
「おっ! やっぱりだ。へへ、あったぜ!!」
臓物の中からゴロゴロと何か出てきた。
「パイオニア1の軍の装備品だ・・・。散々こいつに食われたんだろうよ」
出てきた武器をチェックしながら言った。ほとんどがちゃんと作動する。
「おーい、こいつらはどうする?」
地の海に横たわるホタルを見下ろしながら言った。
「ほっとけ! にしても計画以上にうまくいったな。大物を倒したところで二人を殺し、お宝をいただくはずが、きれいに相討ちになったんだからな」
「まったくだ!」
そういって四人は笑い出した。
「おい、せっかくだからこいつらのもいただいちまおう! この鎧、寄生防具だぜ!」
一人がうつぶせになったホタルを、つま先で仰向けにしながらいった。
「そりゃいい! そいつのを剥がせ。おれはこっちのをひっぺがすからよ!」
そう叫び返して、サトミの体を引き起こした。
「武器はたいしたことねぇな」
「こっちのソードはいい感じだぜ」
大声で話しながら二人の武器を見定めていた。
その時。
サトミのアーマーを外そうとしていた男のあごの下に、巨大なカマが現れた。
「落ち武者狩りか・・・。いい趣味だな」
猛悪な殺気をはらんだ声が響いた。一同が凍りつく。
「ナ、ナイトメア・・・!!」
男はすべてを言い切れなかった。すくい上げるように振りぬかれたソウルバニッシュの柄が、男を高々と跳ね飛ばした。男が船上に叩きつけられるより早く、ナイトメア残る三人のほうを向き直った。その瞳は残る三人を凍りつかせる。
「ま、待ってくれ、ナイトメア! これには・・・」
そこまで言った男は刃の峰でなぎ払われ、船から跳ばされ、大きな水柱をあげた。
「ち、ちくしょうっ!」
ひとりがナイトメアに向かってパルチザンを振り下ろした。そのフォトンの刃を、なんとナイトメアは素手で受け止めた。刃を握りしめたまま引き込み、つんのめった男のみぞおちを容赦なく蹴りつけた。パルチザンの男が、音もなく崩れ落ちる。
「ひ、ひいぃぃぃ!」
女のような悲鳴を上げて残るひとりが逃げ出そうとしたところへ、ソウルバニッシュの刃が追いついた。
「動くな。自分の首が落ちるぞ」
ギルドでホタルに言ったのと同じセリフを、ずっと低いトーンで言った。
「今回は大目に見てやろう。警告だ。今はハンター同士がつまらぬいさかいを起こしている場合ではない。肝に銘じておけ」
男はその言葉に激しくうなづく。
その場で腰を抜かしたように座り込む男を尻目に、ナイトメアはテレポーターを発生させ二人の元へ向かった。サトミを肩に担ぎ、ホタルのショートパンツのベルトをつかんで持ち上げると、テレポーターをくぐった。
-記-
目覚めたホタルの目に映ったのは清潔な天井だった。呆然とまばたきを繰り返す。
すぐ横に気配を感じて、首だけをそちらに向けた。サトミが同じようにホタルのほうを向いていた。
「目がさめた?」
弱々しいが、はっきりとした口調だった。
「うん・・・。ここは・・・?」
普通に喋ったつもりが、あまり声が出なかった
「メディカルセンターよ」
サトミが短く答える。
「ねぇ・・・」
首の向きを戻し、ぼんやりと天井を見ながら言いはじめた。
「うん?」
「ワタシたち、どうしてここにいるのかな・・・?」
ホタルの質問は、半分自問でもあった。
「私もわからないの。さっきホタルが目覚めるすこし前に看護婦さんに聞いたんだけど、メディカルセンターの前に私達が瀕死で倒れてたんですって。で、即刻、培養ポッド行き。七十二時間ほど浸かりっぱなしで、つい三時間ほど前に出たところ」
言い終わったところでサトミも天井を見つめた。
「どうして助かったんだろ・・・」
「ねぇ・・・」
考えがまとまらずにため息を漏らしているところで、ドアがノックされた。
「いかがですか?」
看護婦が食事の載ったワゴンを押しながら入ってきた。ベッドのリクライニングを起こし、二人の前にトレーを置いた。
「あと三十時間ほどで退院ですからね」
と、やさしく微笑みながら言った、看護婦のつま先に何かこつんとあたった。なんだろうという面持ちでベッドの下をのぞいた看護婦が金切り声を上げた。
「な、なにかいる〜!!」
やがてベッドの下からパキパキと乾いた音を立てて「それ」が這い出てきた。
「ネルガル・・・」
ホタルがあきれたように言った。
ネルガルはホタルを宿主と決めたようだった。
やがて退院の時間となった。二人とも身体のほうは全快したが、心はすっかり沈んでいた。
「はー・・・。あいつら、また絡んでくるだろうなぁ・・・」
ホタルの目下の不安はそれであった。培養ポッドにはいったことだけでも、十分にからかわれる材料だ。
「ホタル、なにを言われても平常心で聞き流してね・・・。って、ソードを抜き身のままにしないで!!」
サトミとしては、ホタルがまた暴れないかということの方が不安だった。
やがて、というか、まもなくギルドのドアの前に来た。メディカルセンターの向かいにあるのだから。
シュッという音がしてドアが開いた。
「お、英雄さまのご帰還だ!!」
ホタルの思っていたとおりの言葉がかけられた。しかしその声には心よりの賞賛がこもっていた。周囲から拍手が起こる。
目を丸くする二人にさらに声がかけられた。
「洞窟の奥で、巨大なワームを倒したんだって!?」
「あ、あの・・・、なぜ、それを?」
サトミがおずおずと聞いた。
「ナイトメアが言ってたぜ。あの二人はよくやったって」
「ナイトメアが!」
二人は同時に言った。それで、二人ともなぜ助かったのかわかった。
「さぁ、二人とも! 席を用意してあるぜ!! いろいろ、話してくれよ、今回のクエストのこと!!」
お互いの顔を見合わせるサトミとホタル。
やがて。
「よーし! じゃあ、今回の冒険の話をしようかな!!」
二人がとびっきりの笑顔で言った。
<了> |