| | ●豪華メンバー はじめてお会いしたトレジャーの前川社長は、斗酒なお辞せず、短く刈り揃えたヘアスタイルが大変ダンディーなお方でした。しかし、なにしろ2003年のクリスマスに間に合わせるというので、最初はスケジュール的にちょっとムリというお話。 しかし、その際同席いただいた開発三部の部長様&副部長様が、この企画に興味を覚えてくださり、幸運にもキツいスケジュールを承知の上で、引き受けていただけることとなったのです。 「開発三部の部長様、副部長様。」 こう書くと、グレーのスーツが似合う素敵な中年紳士の姿がイメージされるかと思いますが、マニアのみなさんの間では「やいまん」「ナオキマン」さんとしてのほうが有名かもしれません、そう、「ガンスターヒーローズ」や「爆裂無敵バンガイオー」を作られたメインプログラマー&デザイナーさんです。 「アトム」&「トレジャー」! これで凄いものにならないはずはありません! そう思った私は、そこで再び「トレジャー!」と叫んで風呂から裸で飛び出し(いつ入ったんだ)街を走り回って以下同文。ここにGBA版アトムがスタートしたのでした。 ●こだわりのトレジャー トレジャーとの作業で、大変感心したのが「ゲーム」に対するその真剣なこだわりです。 私もいちおう長くこの仕事をやってますので、それなりの算段を立てて開発に臨みました。こういう版権モノアクションで、妙に目新しいシステムを盛り込んでも拒絶反応を起されるだけなので、(クリスマスシーズンに合わせるという至上命題があるので、目新しいことを試すヒマはないという事情もありますが)だれが見ても『ああ、そういうゲームね』とわかるオーソドックスな絵面と操作系…といいう大枠だけを決めて、とりあえず作業に入れるかなあと思っていたら、これが大誤算。 「ライフ制と自機を並存させる意義は?」 「ジャンプは本当にAボタンでいいのか?」 「対戦格闘風の上ボタンジャンプでは、なぜいけないのか?」 「スコアやタイムは必要ないのでは?」 などなど… それこそボタン操作の一つ一つ、表示される情報一つ一つに対して、もうあきれるほどの徹底したコダワリ!(せっかくの機会ですので、当初私が考えていた仕様ラフをお見せします。このアバウトきわまる操作系が、最後にはどれだけ洗練されたかは実際のゲームでごらん下さい) 「そんなこといちいちやってたら、時間がいくらあっても足りない!」 「ただ時間に間に合わせるために作っても、面白いゲームなんかできない!」 よく考えたらトレジャーのみなさんの主張の方がいかにも正しいんですが、売るタイミングというのも大事なわけです。当然起こる意見の衝突に、最初の数ヶ月、私は柄にもなくイヤな中間管理職モード全開となってしまい、皆様にかなりイヤな思いをさせてしまったことを、ここにあらためてお詫びいたします。実は極論をすると、何か適当なキャラクターが、プレイヤーの操作に反応して、何か適当に動くだけで、アクションゲームというのは一応成立します。 実際、ほとんどそれだけで売りに出されているゲームも世に数多いわけですが、その当たり前のところに「どう動くのか」「どう反応するのか」「それがどう楽しいのか」「それ以外の方法は本当にないのか」という、気が遠くなるほどの徹底したコダワリを見せること、それがまさに「トレジャー流」ではないかと私は今回あらためて思い知らされました。 限られたスケジュールの中で、あきれるほど緻密で膨大なアトムのキャラパターンをもくもくと描きあげたナオキマンさん。(オープニングでちょっとだけ分解図が見られる、アトムのフィンガービーム発射パターンの細かさをご覧下さい)アクションに関してはシロウトに等しい私のムチャな注文を、投げ出さずに最後まで辛抱強く聞き届けて(ときに聞き飛ばして)くださった、やいまんさん。私が特に指示してもないのに、グラフィックの細部に至るまで、オリジナルに忠実な「手塚スタイル」を維持してくださったダッド荻野さん。トレジャースタッフのみなさんの真摯な姿勢には頭が下がる思いでした。 いまさら何言ってやがると思われるかもしれませんが。 次号へ続く・・・ | | | | | |