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いつも楽しくPSOをプレイさせていただいています。ラグオルではA−Kというレイマーで遊んでいます。先だってやっとオンラインクエストの心の座をクリアしたので、その時の感動した思いを小説として表してみました。拙い物ですが、読んでいただくと幸いです。 |
ガル・ダ・バル島。海岸エリア。
熱帯の雲ひとつない空と澄んだ海の広がる、リゾートならば最高の場所。
しかしそこは今、戦場だった。今は夕暮れ。太陽は傾き、海に飲み込まれようとしていた。
フォトンの光弾はひっきりなしに襲ってくるギーを叩き落そうと、それこそ間断なく撃ち続けられている。
広範囲をカバーできるショットの引き金を引き続けているのは、赤い髪のレイマーだった。彼の名はアーク。
その側で電撃系中級テクニックであるギゾンデを放っているフォニュエールもまた、赤い髪をしていた。彼女の名前はヴァーミリオン。親しい者には『V(ヴィー)』と呼ばれている。ケインを振り上げ、その名の通り真紅の髪を水面の上に揺らしながら、アークの撃ち漏らした周囲のエネミィを雷で打ち倒していた。
ハンターズとして島の探索というラボの任を受けているアーク、Vは今、危機のまっただ中にいた。VR試験を潜り抜けた二人の腕は、決して低くはない。そうでなければここまでたどり着けない。しかし、それでもこの島の探索は危険極まりなかった。
そしてついに、彼と彼女は追い詰められた。この海岸エリアでは大量のギーが襲ってくる。砂浜には身を隠す場所もなく、ギーの針から逃れる術は唯一つしかなかった。倒される前に倒す。
しかし、それは簡単なことではなかった。アークとVは次第に砂浜から海へとその戦いの場を移した。望んだわけではなく、あまりの敵の数にそこまで退くしかなかったのである。腰は海につかり、足は水を蹴立て、腕は武器を握ったまま、目は敵を向き、二人は絶望的な戦いを続けていた。
「当たれっ当たれっ当たれっ!」
アークの背面で戦いを続けていたVの雷撃が途切れた。TPが尽きたのだろう。アイテムボックスからフルイドを使う、その一瞬。空中のギーは腹部から針を飛ばした。そこは死角であり、Vは気づいてなかった。アークがその敵に気づいた時、すでに敵は必殺の一撃を放とうとしていた。手に持ったショットじゃ、間に合わない。
「危ないっ!」
アークは迷わずVに体当たりした。相棒の突然の行動に、Vはそのまま倒され、しりもちをついた。敵は減ってきたが、まだまだ油断は出来ないというのに、とVは彼の行動の意味に気づいてなかった。
「いきなりなんだっ!?」
海中に倒れこんだVがケインを支えに立ち上がりながらそう言った。その前にあったのは、アークの顔。その背にはギーの針が深々と突き刺さっていた。そのまま崩れ落ちたアークは、Vの肩に身体を預けながら、力なく言った。
「わりぃ…」
苦笑の形を取ろうとしたのか、引きつりながら口をゆがませる。アークはさらに何か――弁解か、遺言か――言おうとしたが、そこからは血が吐き出されて言葉にはならなかった。その血はVの身体を朱に染めた。
「……バカもの……勝手に死ぬな。貴様が死んでも、わたしは悲しんでやらんぞ…」
Vは静かにそう言った。それに答えることは、アークにはできなかった。ゆっくりと、Vの肩から崩れ落ち、海中にその身体は没した。かろうじて身を仰向けに、顔を海面から脱する。
意識があったのはそこまで。そこからは自らの血で赤く染まる海面と、沈みゆく紅い夕日と、凛と身を翻し、濡れた朱の髪をなびかせ、そこについた水滴を散らしながら敵に向かうVの姿が、アークの見た最後の光景。かすむ視界の中、Vに手を伸ばそうとして、そこでアークは力尽きた。
――ザァ……ザァ……。
ああ。潮騒がうるさい。パイオニア2に乗り込んでから、海なんてずいぶん見てない。だからここに来た時はずいぶんとうれしかった。任務を忘れたことはなかったが、それでもあの閉塞した空気の漂うシップ内よりはラグオルの方がマシだ。しかし、いくらきれいでもここは、地獄だった。
それを思い出したとき、アークの身体に少しずつ感覚が戻ってきた。なんだか冷たい。というより、寒い。
ゆっくりと目を開ける。アークが目を覚ました時にはじめに見たのは、満天の星空だった。慎重に息をつきながら、首を回す。ここは海岸エリアの砂浜から少し離れた場所の岩場。自分の身体の下には草がしかれている。そのせいか、思ったより身体は痛くない。刺された背中以外は。
装備していた鎧がはずされ、深々と傷を負ったはずの場所には丁寧に包帯が巻かれている。その手当てをしたのは、きっと、さっきから自分の隣で何か言おうとして、口をぱくぱくさせている相棒なんだろうと、アークは思った。
「――よぅ……」
「……」
しゃべると、腹が痛む。やはりかなりの深手だったようだ。おそらく助からないくらいに。見ればVもあちこち傷付いている。あそこから怪我人を抱えて一人で切り抜けるには、ずいぶん苦労したことだろう。相手がギーで、この場合は助かったのかもしれない。なぜならば昆虫は気温が低くなる夜間、活動が鈍くなる。そこをついてここまで逃げてきたのだろう。引きつっていることを自覚しながら、アークは口を苦笑の形に作った。
「…俺は、助かったのか?」
「……ふん。その前に言うことがあるだろう」
やっと調子を取り戻したのか、Vはアークに皮肉気に言った。すさまじい意地の張りよう。他にも言いたいことがあるだろうに、Vはそう言った。
「…ありがとう」
「遅い。――が、まぁ許してやろう」
Vはふっと、笑う。その笑顔はとてもうれしそうだった。さすが、自分の相棒だとアークは思った。夜光虫が揺れ、星光が瞬く。敵を呼ぶことを警戒して、それ以外の光源はない。かすかな明かりの中、アークは身を起こした。Vはその傍らで、アークを支えられる位置に腰掛けた。そこで心配そうな顔で、しかし口は正反対のことをアークに言う。
「せっかくわたしが貴様を助けたのだから、その苦労を無駄にしないで欲しいものだ」
――要は無理しないで寝てろ、と。アークはそんな相棒に言った。
「ん。まぁ、大丈夫だろ。転送装置を使うと危ないくらいの深手だったみたいだけど、今ならメディカルセンターに行っても大丈夫なくらいには回復してるし」
ハンターズには緊急転送装置が配備されている。致命傷を受けると自動的に起動するそれによって、ハンターはいつでもパイオニア2に帰還できる。しかし、今回それは使われなかった。きっと少しでも動かすと危ない状態だったのだろう。ほんとによく助かったものだ。
「…ふん」
Vは軽く息をついて、そして何も言わなかった。アークは、上身を起こして海を見ていた。Vはその傍らでアークを見ていたが、やがてその視線をアークの見ているものに合わせた。
そこにあるのは、夜空を映した銀の海。うねる波が、すべての太母にして命の渦だと教えてくれる。そこから生まれ、そこに帰る場所。視線を動かさず、ぽつりとつぶやく。
「海は、すべての生き物の母だって言うなら、俺もそこから生まれたのかな。いつかそこに、帰るモノなのかな。死んだら――そこに行くのかな」
独り言のようなアークの言葉に、Vはいつものように冷淡にも聞こえる声で言った。
「ふん。母の胎内に帰るには、すでに手足は伸びきってしまっている。戻ることはできない。進むしかないんだ。――そうやってここまで、我々はラグオルまで来たんだ。そのゴールがスタート地点だったとしても、まだまだそこにたどり着くには早すぎるというものだ」
「そうだな。まだ…生きてるな、俺」
「ああ。そうだ」
短くVが答える。ついっと、瞳を動かし、アークを見ながら言ってのける。その声は、水面のように揺れていた。
「勝手に死ぬなよ。わたしが困る。それに、貴様が死んだって悲しむ者はいない。それは悔しいだろう。――だから、誰かが自分の死を悼んでくれるまで、死ぬな。満足のいく死を、せめて最後に迎えることができるように」
「…おいおい。それこそ、勝手なこと言うなよ。それに、相棒だってのに死を悲しんでもらえないのか、俺は?」
苦笑をにじませ、アークは星空を移す海を見たまま言った。Vの方は見なかった。泣き顔なんて、彼女は見られたくないだろうから。
「き、貴様の代わりなんぞいくらでもいる。ただ探すのが面倒なだけだ…」
最後の方は、かすれていた。アークはそれでも気づかない振りをした。Vはおそらく、気を使われているのに気づいているだろう。それを指摘しないのは、彼女の矜持だった。
やがて、その場には波の音のみが満ちた。
しばらくして、アークはそう言った。ぽつりと、なんでもないかのように。
「なぁ、俺さ。お前といてよかったぜ」
「…………。」
Vはそれには答えなかった。ただ、目元をぬぐっただけだった。Vの様子には構わず、アークは続けた。
「普通はああいう時、あなたが死んだら悲しいから死ぬな、っていうんだけどさ。でも、それってそいつの都合じゃないか。それなのにお前は悲しんでやらない、それが悔しいなら死ぬな、なんて言ってくれて…」
そこで、Vは立ちあがった。宙空を見上げ、夜の中に手を伸ばす。何かをつかむような仕草。その手の中には何もない。Vはそのままアークに言った。
「人は生まれた時は一人だ。そして誰しもが祝福を受けて生まれるわけではない。それは決して自分で選べない。だが、死ぬ時は違う。死の縁に立つのは一人だが、それをどうやって迎えるか――悲しまれるのか、喜ばれるのか――は自分で選ぶことができる」
Vは微笑みながら言う。彼女はニューマンだ。世界には望まれて生まれてくる命だけでないことを、彼女は知っている。だから、せめて最後は、満足の行くように死にたい。そのために、今、生きている。振り上げ、握り締められた彼女の手の中に、彼女の世界と命はあるのだ。
「ああ、自分の命は最後まで自分のものだ。誰かのためじゃなく、自分のために生きる、そのために。――使い方は自由だがな」
アークは夜空に向いたままの相棒に言った。頭の上からは苦笑混じりの声が降ってくる。
「あんなことは、もうごめんだがな」
Vをかばう、という命の使い方を選んだのはアークだ。それを微塵も後悔していない。
「だけどな、俺はもし、ああいうことがもう一度あったとして、きっとまた、同じことをする。それはわかってるぜ」
「……バカモノが……」
相棒にとっての自分の価値を、そんなことで知りたくはない。――うれしいけど。しかしその本心をVは決して告げずに、ため息だけを吐き出して手を下ろす。そして足元のアークを睨みながら蹴飛ばしたのだった。
「いてっ」
「海にでも落ちろ。バカモノ」
笑いながらアークは抗議をしたが、さらなるキックでもって応対されてしまった。刺された傷の痛みはある。しかしこの瞬間を逃して笑わないなんて、死んでもいやだった。――結局、自分の意地の張りようも相棒とお互い様だと、アークは思った。
「死ぬ、死んでしまうってば」
「そのまま死ねっ。バカモノ」
すべての命のほとりで、二人はそうやって生を確かめていた。
――ただ一人ならば、ここで死んだ。誰にも悲しまれず、誰にも悼まれず、誰にも悔やまれずに。しかし、彼と彼女は二人だった。ただそれだけで、どこまでも行けるということを、星だけが見ていたのだ。
やがて、Vは手を差し出す。その手の中にあったものは、すでに胸の内に仕舞い込んだ。そこにあるのはただの手であり、相棒の身体を起こすものだ。その手を取ってアークは再びラグオルに立ち上がった。
「さて、行こうか。アーク」
「ああ。…よろしくな相棒」 |
なかなか口に出すことはないけれど、深く信頼しあっている2人。お互いに精一杯がんばることが相手のためにもなる、そんな関係が本当の相棒なのかもしれませんね。
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