一攫千金の夢と興奮を押し出すメダルプッシャーゲームマシン。ゴージャスで落ち着きのある外観がプレイヤーを引き付ける。

(1) 左右に移動するポケット。メダルが入るとルーレットが作動する。
(2) ルーレットが止まった数字の枚数ぶんだけメダルが払い出される。
(3) ルーレットが“1STEP”“2 STEP”に止まると、駒が数だけ進む。
(4) 駒がここまで進むとボーナスGET。列車が停止して、積んでいる大量のメダルをフィールド上に払い出す。

ウエスタン ドリームの原画。当初は筐体の中央付近を汽車が走る予定だったが、メダルを落とすために高い位置に設定しなおした。


メダルとプレイヤーの興奮を乗せて現在もなお走り続ける汽車。10年経った今はアメリカ横断どころではなく、延べの距離にするとシルクロードくらい走っていることになる。

プロローグ
‘90年代前半、セガでは新しいジャンルのゲームへの挑戦が次々になされていた。ヒット作も数多く生まれ、まさにゲーム開発の黄金時代であった。そんな時代背景の中で誕生した新メダルゲーム『ウエスタン ドリーム』は、その時代を象徴するかのように、開発から10数年経った今でも大ロングランを記録している。ここでその秘訣に迫ってみた!
メダルゲームの現状を変える!
当時のメダルプッシャーゲームは、プレイヤーが他のゲームで得たメダルを帰り際に使い切るために使われることが多かった。メダルプッシャーゲームをするためにメダルを買うプレイヤーは少数派だったのだ。
そんな中でも、他社のゲームでヒットしているものはあったのだが、やはり余ったメダルを使い切るために利用されていることに変わりはなかった。
開発スタッフたちは、そんなメダルゲームの現状を変えるものを作ろうと燃えていた。
プレイヤーを夢中にさせるギミック
企画の宮本は、新しいメダルゲームの企画を考え始めたが、コレだと思える案はなかなか出てこなかった。(ただメダルが落ちてくるだけではつまらないし、プレイヤーにメダルを手に入れようというヤル気を起こさせることはできない。何か夢中にさせるギミックが必要だ。でも遊び方はあまり難しすぎず、誰にでも楽しめるものにしなければ…)。
そんなとき、たまたま訪れたおもちゃ売り場であるモノを見つけた。売り場を軽快に走り回る赤い汽車だ。それを眺めているうちに、宮本の中で何かがひらめいた。
メダルを乗せて、西部へ!
汽車にメダルを積んで走らせたらどうだろう。目的地まで走らせると、そのメダルが自分のポケットに落ちる仕掛けにするのだ。遊び方は単純にすごろくのルールにして、ルーレットが示した数字の分だけ駒を進めるようにする。目的地まで進めばメダルGETだ! そして汽車が走るフィールドは…アメリカ! それも開拓時代のアメリカだ。夢と希望を乗せた列車がアメリカ西部へと向かう。人々は一攫千金を狙って熱く燃える…。彼はすぐに企画内容と筐体イメージをラフに起こした。
企画のプレゼンでは、営業や開発担当の上司も含め、スタッフ全員が『これは行けるかもしれない!』という嬉しい予感を口にした。そんな期待通り、リリースしたウエスタン ドリームは、瞬く間にプレイヤーと大勢の見物人たちに取り囲まれる結果となった。──しかし、計算外の事態が発生した!
ケガの巧妙!?
豪快に払い出され、プレイヤーのポケットに落ちるはずのメダルがなかなか出ないのだ。すごい量のメダルが、プレイヤーの目の前で落ちそうでおちない。一瞬、プレイヤーが怒り出すかもしれないと背中に冷や汗を感じたが、そんな心配をよそに、彼らはどっぷりとゲームにはまっていった。大量のメダルが目前に迫りつつありながらなかなか手に入らないもどかしさに、ゲームから離れられなくなっていたのだ。余ったメダルを使い切るはずだったプレイヤーが、いつしか新たにメダルを購入しに走っている!
ゲーム開発は決して他社との勝ち負けではないが、目標だったあのメダルプッシャーゲームに勝るとも劣らないものができた。スタッフたちは、いつしか心地よい充足感に満たされていた。
誰からも愛されるゲームへ
プレイヤーに愛されるゲームは、当然アミューズメント施設にもたくさん売れて行く。しかしそれだけで終わらないのがこのウエスタン ドリームだ。ある日、スタッフのひとりが渋谷のアミューズメント施設を訪れると、アメリカ西部をイメージしたはずの筐体の中に雪が積もっていた。店舗のスタッフが季節に合わせてカスタマイズしたらしい。(雪国を走る汽車か…そんなウエスタン ドリームがあっても悪くないな)。スタッフは見違えるように大きくなった子供を遠くから見守る思いでその店を後にした。また他の店では、汽車にド派手な電飾がつけられていたこともあった。
こうして、かつては余ったメダルを使い切るためのゲームだったメダルプッシャーゲームの歴史は変わった。その立役者となった『ウエスタン ドリーム』は、現在、どこのアミューズメント施設でもロングランを続けている。