360度自由自在に操れる体感マシンの真骨頂。内観は戦闘機のコックピットをモデルにしている。プレーヤーは戦闘パイロットとなり、画面上に現れる複数の敵と空中戦を繰り広げる。プレーヤーを確実に守る4点式シートベルトを採用。

試作1号機。長時間乗り続けて筐体酔いするスタッフも多数いた。


プレーヤーの手足がコックピットから飛び出すと自動的に停止するムービングセンサーも搭載。
プロローグ
1988年、セガは数年前からの体感マシンブームに続く新型マシンの開発を急いでいた。「プレイヤーたちは上下左右に揺れる感覚には慣れ、より激しく動くものを望んでいる。あとはもう360度ラウンドさせるしかないだろう」。室内で駆動させる体感ゲームとして最強、そして行き着くとこまできてしまった最終のかたち、それが『R360』 だった。
できる限りのスリルを追求したマシンを作ろう!
コンセプトは『人を乗せてグルグルまわるゲーム』にすること。どうせなら戦闘機に乗っているパイロットが体感するようなスリルを再現しよう。〈それほどのスリルを味わえるゲームはまだどこにもない、これはいけるぞ!〉。私たちスタッフはみんな乗りに乗っていた。
誕生!試作1号機
手探りの状態から始めた筐体作りだったが、なんとか試作機ができるまでに至った。縦に360度回転する外枠と、さらにその内側に別方向に360度回転する内カゴを取り付けた二重構造だ。この組み合わせであらゆる方向に自在に回転できるようになっている。試作機だが、安全性を追求するため各種センサーや非常停止ボタンも設置した。
プログラミング事故発生!
試作機での実験中、安全装置が原因で考えられない事故がおきた。安全センサーは、誰かが回転中の機体に近づくと、すぐに筐体を停止するようプログラミングされていたのだが…。
その日プログラマーは、機能を完全に停止せず安全センサーを足で踏みながら回転を止め中に入ろうとした。しかし彼が中へ入ろうとしたとたん、何かの拍子で安全センサーが切れて動き出した! プログラマーは声を出す間もなく機体へ引きずり込まれた。外枠と筐体のわずか十数センチのすき間に頭を挟まれ、外枠がグニャッと曲がった。苦痛に顔がゆがむ。万事休すか! が、側にいたスタッフが咄嗟に電源を切り、すんでのところで大事に至らずにすんだ。絶対に働く『はず』だったセンサーが働かなかった・・・このことで私たちは、いかに安全性と機体の強度が大切かを改めて思い知ったのだった。
再び事故が!完ぺきな安全性への道は険しく
プログラマーの事故の後、開発トップが言った。「いいな、ひとりで実験するのは禁止だ。必ず二人以上ですること」。しかしあるスタッフが、夜中にひとりで乗り込んだ。どうせ何も起きないとたかをくくっていたのだが、数分後、機体は異常をきたし、逆さまの状態で停止した。遠隔操作のためスイッチまでまったく手が届かない。安全ベルトも、緊急停止した場合は特殊な工具を使わなければ外れないようになっている。「なんでこう頻繁に事故が起きるんだよ」毒づいていられたのも最初の5分だけだった。すぐに顔が熱くなり、頭がボーッとしてきた。「おおーい、誰かぁ・・・来てくれー!」。意識がもうろうとなりながらも必至に助けを呼び続けて30分、たまたま廊下を通りかかった人間が気付いてくれた。〈・・・たすかった〉。
実は人の命が掛かった物なんて作った事がなかった
そんな折、他社の体感マシンでシートベルトが原因の大事故が起きた。このニュースを聞いて私たちは気の引き締まる思いがした。開発スタッフが危ない目に遭っているようでは話にならない。ジェットコースターを作るようなメーカーなら常に人の命が掛かった物を作っていて安全対策のノウハウも当然のように蓄積されているだろうが、セガにとっては、人の命に関わるプロジェクトは初めてなんだ。ノリだけでやっていたら、取り返しのつかないことになる!
考えてみれば我々はメダルゲームやプライズマシンなどを作ってきたが、どんなに事故が起きてもせいぜい指を挟んだり切ったり程度。確かに命のかかわる物は作った事がなかった。
200%の安全性をのせたスリルマシン
開発スタートから1年半後、『ハイテクランド・セガ渋谷店』の前に最高50分待ちの長蛇の列ができていた。列の先では『R360』がひっきりなしに回っている。 「なんだ、これ? でっかいなー」やんちゃざかりの男の子が母親の手を離れ、グルグル回るマシンにかけよった。「!!」一瞬その場にいた誰もが凍りついた。
「あぶない!」しかし母親が叫ぶより早く、マシンはピタリと止まりおとなしくなっていた。 そして・・・登場から14年の月日が流れた今でも、R360は200%の安全性を誇っている。